小顔効果だけじゃない!歯ぎしりにお困りならボツリヌス療法

執筆:吉村 佑奈(保健師・看護師)

小顔を目指せる治療法として有名な「ボツリヌス療法(ボトックス注射)」。メスを使わないプチ整形の一つとして、美容医療の中でも高い人気を誇っています。しかし実は、ボツリヌス療法は歯ぎしりの治療法にも取り入れられてもいます。そこで今回は、とくに歯ぎしりで困っている人に知ってほしい、ボツリヌス療法の効果について解説いたします。

ボツリヌス療法とは

ボツリヌス療法は、ボツリヌス菌が作るたんぱく質(ボツリヌストキシン)を主成分とする薬を注射する治療法です。このとき使われる薬の商品名が「ボトックスビスタ®」が多いことから、一般的には「ボトックス注射」という名前で広く知られています。
ボツリヌストキシンは、筋肉を過度に緊張させている神経を抑制する作用を持っています。そのため、ボツリヌス療法は筋肉の緊張を緩和させることを目的に、さまざまな病気の治療に用いられています。

知られざるボツリヌス療法の治療効果

冒頭でお伝えしたように、「小顔効果」のイメージを持っている人が多いボツリヌス療法ですが、ほかにもいろいろな病気の治療に役立てられています。たとえば脳卒中を発症すると、筋肉が緊張したり手足がつっぱって動かしにくくなる「痙縮(けいしゅく)」という症状が出ることがありますが、この症状を改善する目的でボツリヌス療法が行われます。また、顔の片側だけがけいれんを起こす「片側顔面けいれん」や、まぶたの開閉がうまくできなくなる「眼瞼けいれん」の治療でも、ボツリヌス療法を行うことがあります。このようにボツリヌス療法は、とくに筋肉の緊張やけいれんなどを症状とする病気の治療法で、広く取り入れられています。
また、美容医療の分野では小顔を目的として用いられているほか、しわの改善、多汗症の治療(手のひらやワキなどに注射を打つ)、ふくらはぎや二の腕などの部分痩せの治療などでも、ボツリヌス療法が行われています。
さらに、歯科でも治療に用いられています。とくに、歯ぎしり、食いしばり、顎関節症、ガミースマイル(笑ったときに上の歯茎が出ること)などの改善を目的として、ボツリヌス療法が行われています。そのうち今回は、歯ぎしりや食いしばりとボツリヌス療法との関係について、詳しくみていきましょう。

ボツリヌス療法:歯ぎしりと食いしばり

いわゆる「歯ぎしり」は上下の歯を横にすり合わせることを言い、専門的には「グライディング」と呼びます。これに対して「食いしばり」は、上下の歯にぐっと力を入れてかみしめることで、専門的には「クレンチング」といいます。一般的には歯ぎしりは睡眠中に多く、食いしばりは日中でも見られることがあります。どちらも詳しい原因はわかっていませんが、ストレスなどが関係しているといわれています。
癖になっていて、無意識で行っている人が多い歯ぎしりや食いしばりですが、顎や歯に力がかかることから、長期間続くと歯や歯茎などに負担がかかり、痛みが出たり、歯周病を悪化させることがあります。また、顎への負担が大きい場合には顎関節症の原因にもなります。さらに、顎に力がかかることで肩や首の筋肉が凝ってしまい、頭痛や肩こりの一因になったり、歯並びが悪くなる、エラが張ってしまうといった、見た目の問題を引き起こすこともあります。

歯ぎしりとボツリヌス療法

歯ぎしりや食いしばりは無意識のことも多く、自覚していない人も少なくありませんが、その影響を考えると、予防や対策が必要になります。自分でできる予防法としては、ストレスをためないようにすることや、歯ぎしりや食いしばりをしていないかを意識して改善することが挙げられます。ただし、お伝えしたように、とくに歯ぎしりは睡眠中に見られることが多いこともあって、セルフケアだけでは改善しないことも少なくありません。ですから、とくに周囲から歯ぎしりや食いしばりを指摘されたことがある人や、起床時に顎に疲れや痛みを感じている人、歯科健診などで歯ぎしりや食いしばりを指摘されたことがある人は一度歯科で相談することをおすすめします。
病院では一般的に、専用のプレートやマウスピースを使って、歯ぎしりや食いしばりの治療を行います。また、歯や顎の状態によってボツリヌス療法を併せて行います。歯ぎしりの改善を目的にボツリヌス療法を行う場合には、咬筋(こうきん)という頬の筋肉などに注射を打ちます。1回の注射で、およそ約3ヶ月~半年間ほど効果が持続します。また、必要に応じて、その後も複数回注射を打つことがあります。
一方で治療費が保険適用外になることや、未成年や妊娠中、授乳中の人など、治療を受けられない人もいることなど注意点もいくつかあります。そのため、ボツリヌス療法を希望する際には、事前に疑問点や注意点などについて、病院に確認しておきましょう。

まとめ

  • ボツリヌス療法は、ボツリヌス菌が作るたんぱく質(ボツリヌストキシン)を有効成分とする薬を注射する治療法
  • ボツリヌス療法は筋肉の過度な緊張を緩和させることを目的に行われる
  • ボツリヌス療法は、脳卒中によって現れる症状や、片側顔面けいれん、眼瞼けいれんの治療で行われている
  • 美容医療では、小顔目的の治療やしわの改善、多汗症治療、部分痩せなどで行われている
  • 歯科治療では、歯ぎしりや食いしばり、顎関節症、ガミースマイルなどの改善を目的として、ボツリヌス療法が行われている
  • 歯ぎしり(グライディング)は、上下の歯を横にすり合わせることで、食いしばり(クレンチング)は、上下の歯にぐっと力を入れてかみしめることをいう
  • 歯ぎしりや食いしばりの原因は定かではないが、ストレスとの関連が指摘されている
  • 歯ぎしりや食いしばりが長期間続くと、歯や歯茎に負担がかかり、歯周病や顎関節症の原因になるほか、歯並びの悪化など、見た目も変化することがある
  • 歯ぎしりや食いしばりはセルフケアで治しにくいので、歯科受診がおすすめ
  • 歯ぎしりや食いしばりの治療では、専用のプレートやマウスピースによる治療と併用して、ボツリヌス療法が行われることがある
  • 歯ぎしりの改善を目的にボツリヌス療法を行う場合には、咬筋という頬の筋肉などに注射を打つ
  • 1回の注射で、およそ約3ヶ月~半年間ほど効果が持続するが、必要に応じて、その後も複数回、注射を打つことがある
  • 治療費が保険適用外になることや、治療を受けられない人もいることなど、注意点もあるので事前に病院に確認すること