イオン導入のメリット。家庭用美顔器との違いはある?

執筆:南部 洋子(助産師・看護師・タッチケア公認講師)

せっかくの高価な美容成分も、肌に効果的に届いていないとすれば、あまりにもったいないという気持ちがしますね。クリニックで行うイオン導入は、皮膚のより深いところまで美容成分を届ける施術です。ここでは、クリニックで受けられるイオン導入について、その仕組みや家庭用イオン導入器との違いをお伝えします。

イオン導入(イオントフォレーシス)とは

微弱な電流を流すことによって、肌の表面に塗った美容成分などをイオン化し、主に電子が反発しあう力を利用して、肌のより深くまでその成分を届けるという施術です。
私たちの皮膚のもっとも外側にある角質層(角層)は、外界からの異物から皮膚を守り、内部にある水分や体液が外に出ていかないようにする「バリア機能」を果たしています。そのため、通常のスキンケアで化粧水や美容液を肌に塗るだけでは、その成分は角質層より内側には届きません。角質層の厚さはわずか0.01~0.02mmほど(ラップ一枚程度)です。
さらに、角質層はプラス(+)イオン、その下の顆粒層はマイナス(-)イオンをそれぞれ多く帯びていて、二つの層のあいだには電気的な境目ができています。ここにイオン導入器で電流を流すとその境界が一時的にゆらぐため、美容成分がより皮膚へと浸透しやすくなります。
美容成分を塗った肌にマイナス(-)電極を当てるとマイナス(-)イオンを帯びた成分が浸透し、逆にプラス(+)の電極を当てるとプラス(+)イオンを帯びた成分が浸透します。
この方法を用いると、肌への成分の浸透率は、手で塗ったときと比べおよそ30倍以上にもなるといわれています。

イオン導入に期待できる効果とは?

期待できる効果は、浸透させようとする成分によって異なります。イオン導入に用いられる代表的な成分ごとに、特徴を挙げてみましょう。

ビタミンC誘導体

本来は不安定なビタミンCを安定化させたもので、イオン導入に用いられる非常にポピュラーな成分です。皮膚の内部で酵素の働きを受けることでビタミンCとしての働きを取り戻し、抗酸化作用や美白効果を発揮します。
メラニンの産生を抑制する働きがあり、シミができにくくなります。また、皮脂の過剰な分泌を抑えて活性酸素を除去するため、ニキビや毛穴の開きにも有効とされています。さらに、コラーゲンの分解を阻止し、コラーゲンの合成を助ける働きも持っています。肌のハリやシワの改善に期待できる成分です。シミ・くすみの改善やニキビややけど後の色素沈着の予防にも適しています。

プラセンタ

ヒトの胎盤から抽出されたエキスで、身体の組織をつくるために必要なアミノ酸、ビタミン、ミネラルを含んでいます。コラーゲンやエラスチンの産生を促進します。保湿効果がより高まります。

トラネキサム酸

肝斑(かんぱん)の原因となる物質の抑制に有効と認められている成分で、治療にも用いられます。炎症を抑える働きもあるため、敏感肌の人や日焼け後の鎮静にも適しています。ただし、ヒリヒリするほど重度の日焼けの対処には向きません。

グリシルグリシン

皮脂に含まれている不飽和脂肪酸によって起こる炎症を抑制し、毛穴を収縮させます。さらに、角質細胞内のイオンバランスを保ち、正常な肌のターンオーバーを促す働きがあるため、肌のキメを整えます。

クリニックと家庭用美顔器との違いは?

イオン導入器は家庭用としても売られていますが、クリニックとの決定的な違いは出力の差です。一般的に、家庭用美顔器の出力レベルは、安全性を考慮して低めに設定されています。クリニックでは専門の医師が扱いますので、より出力の高い器機を使用できます。
また、クリニックの場合、個々の肌の悩みに合わせて医師と相談しながら成分を選べる、という点もメリットでしょう。イオン導入には、分子の大きさや極性によって向く成分と向かない成分があります。ですから、家庭でイオン導入器を使う際は、使用する化粧水や美容液によってはリスクが高くなることも考えられます。とくに合成界面活性剤や防腐剤、合成着色料や合成香料などは、イオン化されて皮膚の深部に入ると悪影響を及ぼす懸念がありますので注意が必要です。必ずイオン導入専用の成分を使用してください。

イオン導入の注意点

クリニックで施術を受ける際に知っておくべきことを押さえておきましょう。

施術を受けられない人

イオン導入の施術では、微弱ながら電流を流します。ペースメーカーなどの金属類を体内に入れている方、妊娠中の方、心臓病のある方、不整脈があって内服や通院をしている方などは、原則として施術を受けられません。湿疹やかぶれなど肌の状態が悪化しているときもリスクが高いので、事前に相談しましょう。

施術時の痛みや副作用

イオン導入は「針を使わない注射」とも呼ばれます。個人差はあるものの、ほとんど痛みは感じない施術です。ただし、電流が流れるときに目がチカチカしたり、肌がピリピリしたりすることがあります。
また、まれに赤みやかぶれ、やけどや色素沈着が起こるケースが見受けられます。皮膚の状態や成分と肌の相性にも左右されますので、とくにアレルギーを持っている方などは注意が必要です。

施術の頻度

一回の施術による効果の持続は1~2週間程度です。肌の悩みを効果的に改善していくためには、数週間に一回から1か月に一回の頻度で、継続的に施術を受けることが望ましいとされています。

イオン導入は、一時的とはいえ肌に備わっているバリア機能を解除し、美容成分を外部から皮膚内部へと送り込む施術です。イオン導入の仕組みをよく理解し、納得した上で施術を受けるようにしましょう。

まとめ

  • イオン導入とは、美容成分をイオン化し、主に電子が反発しあう力を利用して肌のより深い部分に成分を届ける施術
  • 成分の浸透率は、肌に塗っただけの場合に比べておよそ30倍以上とされる
  • ビタミンC誘導体には抗酸化作用や美白効果があり、シミや小じわ、ニキビやハリの改善が期待できる
  • プラセンタは皮膚の組織に必要なアミノ酸・ビタミン・ミネラルなどを含み、コラーゲンやエラスチンの生成を促す
  • トラネキサム酸は肝斑の原因となる物質を抑制する働きと、炎症を抑える作用がある
  • グリシルグリシンは皮脂の不飽和脂肪酸による毛穴の開きを小さくする働きがあり、皮膚のターンオーバーを正常にする
  • 家庭用のイオン導入器とクリニックでの施術の大きな違いは、出力の差にある
  • クリニックでは、悩みに合わせて医師と相談しながら成分を決められるというメリットがある
  • イオン導入に向いている成分と向いていない成分があるので、家庭で行う際には注意が必要
  • 電流を流すため、施術を受けられない人もいるので確認が必要
  • 施術の際に痛みはほとんどないが、目がチカチカしたり肌がピリピリしたりする場合がある