正しい火傷(やけど)の対処法

執筆:南部 洋子(助産師・看護師・タッチケア公認講師)

身体を温めるグッズが活躍する寒い季節。温かい食事作りのため、調理に費やす時間も増えるのではないでしょうか。そんな季節に気をつけたいのが火傷(やけど)です。やけどは火事などによる重度の症状から、料理などが原因の軽度の症状までさまざまです。今回は、ご家庭でできる正しいやけどの対処法をお伝えします。

やけどとは

おもに熱エネルギーによって皮膚細胞がダメージを受けた状態で、医学用語では「熱傷(ねっしょう)」といいます。
日常的には、高温の油がはねたり真夏日に車の鉄板を触ったりしたときなど、熱い物への接触によってやけどになります。日焼けもやけどの一種です。また、それほど高温でなくても熱傷になる「低温やけど」もあります。これは40~50度くらいの温度になる、たとえばカイロや湯たんぽなどが長時間同じ部位に当たることで起こります。
皮膚が受ける障害の程度は、触った熱源の温度と接触した時間によって変わってきます。高温の場合は短時間でもやけどになりますし、低温でも長時間にわたって接触するとやけどになります。
さらに、やけどの重症度には面積と深さが関わっています。浅いやけどでも、やけど状態の皮膚面積が広範囲であれば重症です。また、たとえ面積が小さくても、皮膚の表面だけではなく深部までやけどをしていればこれも重症になります。
軽いやけどの多くは自然に治りますが、とくに気道など粘膜のやけどは、窒息や合併症を引き起こす可能性があり、命に関わることになりかねませんので注意が必要です。

やけどの種類

温熱熱傷

熱湯や蒸気、火などで皮膚表面や粘膜などが損傷します。火災時に起こる気管や気管支、肺のやけどや、低温やけどなどもこれに入ります。

化学熱傷

強い酸性やアルカリ性の薬品に接触することで起こるやけどをいいます。温熱熱傷に比べて損傷が深く、感覚障害が起こる場合もあります。

電撃熱傷

落雷や感電などで体内に電流が流れて、人体の抵抗から起こる熱によってやけどになります。水分がついた皮膚は感電しやすいので要注意です。

やけどの深さ

Ⅰ度

皮膚(表皮)が赤くなる程度で、通常3~4日で赤みが減ってきます。ほとんどの日焼けはこのレベルに該当します。

Ⅱ度

皮膚に水疱(水ぶくれ)ができる中間の深さのやけどをいいます。Ⅱ度のやけどはさらに「浅いやけど」と「深いやけど」に分けられます。

Ⅲ度

一番深いやけどの状態です。皮膚は硬く、黄白色となり、治ったあとにもケロイドなどの傷跡が残ります。

Ⅰ度のやけどは家庭でも対処ができる程度ですが、Ⅱ度やⅢ度になると病院での治療が必要になります。

やけどの治療法

Ⅰ度

家庭で対処できますので、次項で方法を紹介します。

Ⅱ度

浅いやけどか深いやけどかの判断が必要です。

浅いやけどの場合

軟膏療法や保存療法(傷を密閉する特殊ガーゼを使用)によって、2週間ほどで皮膚が再生してきます。傷跡はほとんど残りません。

深いやけどの場合

深いやけどは治りにくく、2~3週間しても皮膚の再生はなかなか進みません。範囲が広い場合や感染を起こした場合は、壊死組織の除去や皮膚移植などの手術をすることもあります。

Ⅲ度

皮膚の再生が見込めないので、原則として壊死した皮膚組織を除去した上で、皮膚移植などの手術療法が行われます。

家庭での対処法(Ⅰ度のやけど)

やけどをしたら、程度に関係なくまずは冷水などで冷やしましょう。
冷やすことで痛みを抑え、悪化を防ぐことができます。しかしながら、あまり長時間冷やし続けると逆に凍傷を起こす可能性もありますので、注意が必要です。
目安としては10~15分以上流水で冷やし、それでも痛みが治まらないようでしたら皮膚科など病院の受診をお勧めします。
水道水を直接患部に当てる方法が一番よいのですが、流水がない場合は保冷剤など凍っているものを当てる方法も応急処置として有効です。ただし、保冷剤は冷たすぎて15分以上冷やすのは難しいうえ、硬くて痛いといった点から、できればビニール袋に氷と水を入れて患部を冷やすほうがよいでしょう。
痛みが治まったら、次はやけどをした患部を観察してください。大きさはどのくらいか、赤くなっているか、水ぶくれがあるかなど、状態を確認します。
このときとくに注目すべき点は、水ぶくれがあるかないかです。水ぶくれがあると重症度が高くなります(Ⅱ度以上)。なおかつ水ぶくれはやけどの傷を保護していますので、破れないように注意してください。また、可能な限り皮膚科への受診をおすすめします。

間違った対処法

衣服を脱がせる

衣服の上から熱湯や油がかかってしまってやけどをしたときは、すぐに脱がせたくなると思います。しかし、皮膚と衣服がくっついている場合は、無理に脱がせないでください。くっついた皮膚が一緒にはがれてしまい、ズルむけ状態になる恐れがあります。また、脱がせようとしたときに服がやけどに接触して擦れてしまい、悪化させる可能性も考えられます。このようなケースでは、衣服の上から冷やすのがベストです。

家庭用創傷パッド(キズパワーパッドなど)を貼る

やけどをしたときに、キズパワーパッドなどの「家庭用創傷パッド」を貼れば治るという情報も流れているようですが、これは必ずしも正しくありません。家庭用創傷パッドは通常の絆創膏とは異なり、傷が乾燥する前の湿った状態のときに使い、「湿潤療法」の効果による治癒を目的としています。
範囲が狭く赤くなる程度のやけどには、家庭用創傷パッド(キズパワーパッドなど)も有効でしょう。しかし、Ⅱ度以上のぷっくりとした水ぶくれにこうしたパッドを貼ると、傷とパッドがくっついてしまい傷口を余計に悪化させてしまうのです。ですから、Ⅱ度以上のやけどは、一度医療機関を受診して処置をしてもらったほうがよいでしょう。

アロエを塗る

アロエという植物自体には、やけどに効く成分が含まれています。しかし、アロエを取ってきてそのまま患部につけると感染の恐れがあります。やけどをした部位は皮膚が損傷しているので、感染症のリスクが高まっています。そのような状態の患部に、雑菌だらけの生のアロエを使うことはNGです。
アロエには炎症を抑える作用や、水分を皮膚に留めておく保湿作用などがありますから、アロエ入りのクリームや軟膏を用意しておくのはよいですね。

やけどの予防

生活環境の見直し

やけどの予防は、まずは生活環境を見直してみましょう。
やけど患者は子どもが多いため、手の届く範囲に電気製品(ケトル、炊飯器など)を置かないようにします。また、グリル付きコンロに触ってしまう事例も起こっていますので、調理の前後には安全を確認しましょう。

低温やけどに注意

湯たんぽ、カイロ、電気毛布、電気あんかなどを使用する場合、同じ場所を長時間温め続けているとやけどを起こします。とくに就寝時は注意が必要です。44度では6~10時間、50度では約3分で低温やけどになるといわれています。温度と時間には十分に気をつけましょう。子どもや高齢者をはじめ、知覚麻痺や糖尿病の持病がある人などはとくに注意が必要です。

まとめ

  • やけどによるダメージの大きさは、熱源の温度と接触時間によって変わります。
  • やけどの重症度は、面積と深さで決まります。
  • やけどの応急処置はとにかく冷やしてください。
  • 間違った対処法の通説もあるので注意してください。
  • 水ぶくれがあるⅡ度以上のやけどは医療機関を受診してください。