病院に行くべき?繰り返す『口唇ヘルペス』への正しい対処

執筆:井上 愛子(保健師・助産師・看護師)

たびたびできる口唇ヘルペス。あなたも悩まされていませんか?ウイルスが原因のこの病気は、正しく対処しないと悪化したり、再発を繰り返したり、さらには、周囲の人にうつしてしまう可能性も含んでいます。今回は、侮れない口唇ヘルペスの原因や対処法についてご説明します。

口唇ヘルペスってどんな病気?

口唇ヘルペスは、「単純ヘルペスウイルス」というウイルスへの感染によって起こる病気です。代表的な症状は、唇やその周りにできる水ぶくれです。症状がでている部位に直接触れることで感染するほか、ウイルスが付着したタオルやコップなども感染源となります。
口唇ヘルペスの厄介な特徴は、一度かかると何度も再発を繰り返す可能性があることです。とくに、過労などで免疫力が低下している時に発症しやすいといわれています。再発の予防には、最初に発症した時点で適切な処置を施すことはもちろん、日頃からの体調管理も重要です。

口唇ヘルペスの原因

ヘルペスウイルスは、似たような構造や性質を持つ「ウイルス群」を指しています。つまり、口唇ヘルペスの原因とされる単純ヘルペスウイルス以外にも、多くのヘルペスウイルスの仲間が存在するということです。その数約160種類で、そのうちヒトに感染するウイルスは8種類あり、ヒトヘルペスウイルス1~8(HHV-1〜HHV-8)に分類されています。
口唇ヘルペスの原因となるのは、「単純ヘルペスウイルス1型(HHV- 1またはHSV-1と表記)」です。このほか、性器ヘルペスの主な原因になる「単純ヘルペスウイルス2型(HHV-2またはHSV-2)」、水ぼうそうの原因になる「水痘・帯状疱疹ウイルス(HHV-3またはVZV)」といったように、ウイルスの種類によって発症する病気が異なります。
一度ヘルペスウイルスに感染すると、その後生涯にわたってウイルスは体内の神経節に潜伏します。普段は悪さをしませんが、風邪を引いたり、睡眠が不足したりして体力や免疫力が低下すると、再活性化することがあります。そうすると、初感染の時とは異なる形で症状がでてくる可能性も考えられるのです。

単純ヘルペスウイルスの症状

通常、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)に感染すると、4~7日で感染した部位に発疹や水ぶくれができます。また、感染した部位に近いリンパ節が腫れることによる痛み、発熱やだるさ、頭痛といった症状が伴う場合も少なくありません。ただし、初感染の時は、無症状やわずかな発疹にとどまるなど、ヘルペスウイルスへの感染に気づかず治ってしまう人もいます。
かつては、子どものころHSV-1に感染し、無症状のまま知らず知らずのうちに免疫を獲得している人もかなり存在しました。しかし、衛生観念の普及などから、現在はウイルスに感染する機会が減っています。その結果、大人になって初めて感染し、重い症状に悩まされるケースが増えているのです。

口唇ヘルペス:再発時の症状

一度感染したヘルペスウイルスは体内に潜んでおり、免疫力が低下すると再発を繰り返します。再発時は、初感染の時よりも症状が穏やかなケースが多いのですが、唇やその周囲に発疹や水ぶくれができたり、ただれたりするようなこともあります。また、明らかな水ぶくれができる前に、かゆみやチクチクとした違和感を伴うこともあります。水ぶくれやただれは、やがてかさぶたとなり、1~3週間程度かけて安定していきます。

口唇ヘルペスの対処法

初めて口唇ヘルペスの症状が出た場合は、自分で判断せず、必ず皮膚科などを受診してください。初感染では、重い症状がでたり、別の病気が隠れていたりする可能性も否めません。さらに、安易に様子をみていると、気づかないうちに周りの人にうつしてしまうリスクも高くなります。
基本的な治療法は、抗ウイルス薬の内服と、症状が出ている部位に塗り薬を塗ることです。ウイルスを身体から完全に除去することはできませんが、抗ウイルス薬によって増殖の抑制と、症状を鎮める効果は期待できます。また、患部はこすったり触ったりせず、清潔を保つことで治癒を早めます。薬を塗布する際など、水ぶくれに触れた場合は必ず手をよく洗いましょう。加えて、タオルや食器を共有しないなど、周りの人への感染を防ぐ配慮も重要です。
現在、口唇ヘルペス用の治療薬は、薬局などでも購入できるようになりました。しかし、これはあくまで再発の人が対象なのでご注意ください。過去に病院で口唇ヘルペスと診断を受け、再発の前兆に気づいたケースに限り使用可能です。ただし、こうした一般薬を使っても症状がおさまらない、口唇ヘルペスの再発かどうか判断がつかない、といった場合は、必ず病院を受診してください。口唇ヘルペスは、正しい知識を持って適切に対処することが、早期治癒と周囲への感染防止につながります。

口唇ヘルペスは健康のバロメーター

前述のとおり、口唇ヘルペスは、なんらかの理由で体力や免疫力が下がったときに再発しやすい病気です。きっかけとして多いのは、風邪や発熱、過労、ストレス、日焼けによる紫外線ダメージなどです。つまり、口唇ヘルペスの再発は、身体に負担がかかっている状態を示すサインともいえます。
一度感染したヘルペスウイルスを身体から追い出すことはできませんが、再発しにくい体づくりを心がけることは可能です。日頃からバランスのよい食事や、規則正しい生活を意識しましょう。十分な休養やリフレッシュの時間を確保し、ストレスを溜め込まないような工夫も必要です。
口唇ヘルペスは健康のバロメーターと捉え、体調がすぐれないときや疲れが溜まっているとき、前触れのようなチクチクとした違和感を覚えたら早めに休息をとり、体調管理を徹底しましょう。

まとめ

  • ヒトに感染するヘルペスウイルスは8種類あり、さまざまな症状を引き起こす
  • 口唇ヘルペスは「単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)」への感染が原因
  • 代表的な症状には、発疹や水ぶくれのほか、発熱、だるさ、頭痛などがある
  • 初感染時は症状が重い場合が多いが、無症状で治るケースもある
  • HSV-1に感染するとウイルスは生涯体内に潜み、再び活性化する可能性がある
  • 初めて感染した際は、病院を受診し正しい診断を受けることが大切
  • 治療は抗ウイルス薬の内服、外用が基本で、患部は清潔にすることが重要
  • 患部に触れた場合はよく手を洗い、家族などとのタオルや食器の共有を控える
  • 再発予防のためには、免疫力が低下しないように体調管理に気を配ることが重要