掻きむしった手から全身に!夏に増加する「とびひ」の症状と皮膚科での治療方法を解説

執筆:井上 愛子(保健師・助産師・看護師)

虫刺されや湿疹を、触ったり掻いたりしてしまうことがきっかけで発症する「とびひ」は、火事の飛び火のように体中に症状が広がることから、一般的にこのような名で呼ばれています。悪化させる前に、とびひの症状や予防、治療方法などについて知っておきましょう。

「とびひ」とは

今回お伝えする「とびひ」。実は、この呼び方は一般的な俗称で、医学的には「伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)」と言います。皮膚トラブルとして起こりやすいあせもや湿疹、虫刺されなどを強く掻いてしまったり、転んだ時にできる傷に細菌が感染すると起こる皮膚の病気で、感染した部分から「飛び火」するように症状が広がる、という特徴があります。

とびひの原因となるのは「黄色ブドウ球菌」や「溶血性連鎖球菌(溶連菌)」といった細菌です。このような細菌は「常在菌」と呼ばれ、健康な人の皮膚の表面や鼻の中、喉などにいるもので、珍しい菌ではありません。通常、皮膚にはバリア機能が備わっているため、常在菌が悪さをすることはありませんが、皮膚に小さなキズができて中に入り込むと、とびひを発症させる原因となってしまいます。

とびひの症状

とびひの症状は、大きく2種類に分けられます。1つは「水疱性膿痂疹(すいほうせいのうかしん)」と呼ばれる、水ぶくれができるタイプ。もう1つは「痂皮性膿痂疹(かひせいのうかしん)」と呼ばれる、かさぶたができるタイプです。

水ぶくれができるタイプは、黄色ブドウ球菌が原因で、とくに暑い季節、赤ちゃんや子供によく見られます。虫刺されやあせも、擦り傷などを引っ掻いてしまうことがきっかけになりやすく、最初に赤みや痒みを伴う水ぶくれができ、それが破れるとただれる症状がでます。水ぶくれの中身に触れた手で他の部位を触ると、あちこちに広がってしまい、鼻の穴に指を入れたり頻繁に触ることで、鼻のまわりにできることもあります。

一方、かさぶたができるタイプは、溶連菌の一種であるA群β溶血性連鎖球菌が原因で、季節にはあまり関係なく、子供よりも大人に多く見られます。症状のはじめは赤みがでて、次第に膿のたまった小さな水ぶくれができ、それが破れてただれると厚いかさぶたになります。その部分が腫れたり痛みを伴うこともある他、喉の痛みや発熱、リンパ節の腫れ、といった症状がでる場合もあります。アトピー性皮膚炎などと合併することもあり、急に発症する、という特徴があります。

とびひの症状は、体中に広がるだけでなく、人から人へもうつるため、保育園や幼稚園といった子供が多く集まる場所での集団発生も多く見られます。

とびひの治療法

とびひの症状が見られる場合は、早めの治療が肝心です。悪化すると、体のあちこちに症状が広がってしまうため、皮膚科を受診し治療を受けましょう。

症状が軽度の場合は、抗菌薬の塗り薬を使用し、とびひが体中に広がっている場合は、塗り薬と合わせて内服薬を服用します。とびひは強い痒みを伴いますが、掻きむしると症状がさらに悪化してしまうため、痒み止めである抗ヒスタミン薬の飲み薬を使うこともあります。

また、稀なケースではありますが、黄色ブドウ球菌の毒素が血液中に入り込むと、高熱や皮膚の強い赤み、痛みなどが見られるSSSS(ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群)という全身性の疾患が発症してしまうこともあります。かつては幼い子供の命を脅かす病気でしたが、現在は早期に治療を開始すれば重症化を防げるため、子供に気になる症状が見られる場合は、特に、早めに受診しましょう。

とびひの対処と予防法

とびひが発症してしまった場合は、悪化を防ぐためにも、周りの人にうつさないためにも、生活の中で適切な対処をする必要があります。

まず大切なのは、症状がでている箇所の清潔を保つこと。発熱などの全身症状がある場合を除き、入浴し、よく泡立てた石鹸で患部を丁寧に洗って、流しましょう。入浴後は、滲出液が周りにつかないよう気をつけ、外用薬を塗った後、ガーゼなどで保護します。タオルや衣類などを介してうつることもあるため、家族や友達との共用は避けます。入浴も、可能であれば一番最後にする方が良いでしょう。洗濯については、一緒に行っても問題ないとされています。周囲の人にうつすのを避けるため、水遊びやプールなどは、治癒するまで控えましょう。

また、子供は、とくにあせもや湿疹、虫刺されなどの痒みを我慢できず、掻いてしまいがちです。とびひの発症を予防するためには、日頃から爪を短く切り、正しく手洗いをして、清潔を保つよう心がけましょう。

汗をかきやすい夏に増加するとびひですが、適切な対処を守り、必要な治療を受ければ、悪化を防ぐことができます。さまざまな肌トラブルを防ぐためにも、皮膚は清潔に保ち、気になる症状がないかチェックする習慣をつけましょう。

まとめ

  • 「とびひ」は、医学的には「伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)」と言う
  • あせもや湿疹、虫刺されを強く掻いたり、転倒時の傷などに細菌が感染すると発症する
  • 感染した部分から「飛び火」するように症状が広がるため、「とびひ」と呼ばれる
  • 原因となるのは「黄色ブドウ球菌」や「溶血性連鎖球菌(溶連菌)」などの常在菌である
  • とびひの症状は、水ぶくれができるタイプとかさぶたができるタイプの2種類に分けられる
  • 多いのは水ぶくれができるタイプで、赤ちゃんや子供が夏に発症しやすい
  • とびひは周囲の人にもうつるため、保育施設などでの集団感染も見られる
  • とびひの悪化を防ぐためには適切な治療を受け、日常生活にも注意することが重要
  • 治療は抗菌薬の外用に加えて、内服薬を併用することや痒み止めを使用するケースもある
  • とびひの症状が見られる場合は、皮膚を清潔に保つことが重要
  • タオルや衣類の共用は避け、プールは控えるといった周囲への配慮も必要
  • とびひを予防するためには、日頃から爪を短く切り、細菌に感染するきっかけを作らないことが大切