毛虫皮膚炎とは? 人にうつるか、痕が残るかなどのよくある疑問にお答えします。

執筆:井上 愛子(保健師・助産師・看護師)

毛虫の毛に触れてしまうことで発症する「毛虫皮膚炎」。気づかない間に刺されていることもあり、原因がわからず対処に迷うこともあるでしょう。また、人にうつるか、痕が残るかなども気がかりです。そこで、毛虫皮膚炎になってしまった時に知っておきたい対処法や疑問点を詳しく解説しましょう。

毛虫皮膚炎とは

毛虫皮膚炎は、蛾の幼虫である毛虫の毒毛に触れることによって生じる皮膚炎です。すべての毛虫が毒を持っているわけではありませんが、皮膚炎の原因となる毒毛を持つ蛾や蝶の仲間は国内に50種類ほどいると考えられています。また、毒毛のタイプには、有毒毛(ゆうどくもう)と毒棘(どくきょく)の2種類があり、それぞれ症状も異なります。
有毒毛を持つのはドクガ、チャドクガといったドクガ類で、赤い発疹がたくさんでき、強い痒みを伴います。毛虫に触れるだけでなく、毛虫から自然に抜け落ちた毛が皮膚や衣類などに付き、その部分をこすることで皮膚に刺さったりして症状が出る場合もあります。
また、他にマツカレハ、ヤマダカレハといったカレハガ類も毒毛を持ちます。
一方、毒棘はとげのようなもので、イラガやヒロヘリアオイラガといったイラガ類に備わっています。毛虫に直接触れることで毒液が皮膚に注入されます。症状は強い痛みを感じることが特徴です。

毛虫皮膚炎の代表的な原因「チャドクガ」

毒を持つ毛虫の種類は様々ですが、毛虫皮膚炎で病院を受診する患者様の中で特に多いのは、チャドクガによる皮膚炎です。おもにお茶の木に発生する毒蛾であったことから、その名前が付いたとされるチャドクガ(茶毒蛾)。庭木や公園のツバキ、サザンカなどの樹木のまわりによく生息しています。幼虫の全身には、長さ0.1〜0.2mmほどの毒針毛が密集していて、1匹になんと50万本程度も生えています。庭仕事や木の刈り込みなどでうっかりこの毛に触れてしまうと、皮膚炎を発症します。また直接触れなくとも、風に飛ばされた毛が衣類についたり、毛虫がのっていた葉っぱを触ったりすることでも症状が出ます。
チャドクガは年に2回孵化するため、幼虫が発生する4〜6月と8〜10月頃は、最も毛虫皮膚炎にかかりやすい時季です。ただし、チャドクガは卵の段階から成虫になるまでずっと毒針毛を持っていて、脱皮した後の抜け殻に触れることもきっかけになるので、一年中、気をつける必要があります。

毛虫皮膚炎の症状

ドクガ類の有毒毛に触れてしまった場合、その直後には自覚症状のないことがほとんどです。数時間経ってからピリピリとした痒みが出始め、発症から1〜2日で広範囲に赤いぶつぶつが見られるようになり、強い痒みの症状もピークになります。
また、この赤いぶつぶつや痒みは、首や腕に集中して出やすく、水ぶくれになるほど拡がって腫れたり、耐えられないほどの痛みが伴ったりすることもあります。さらに、患部を引っ掻いたりこすってしまうと、細菌に感染し、とびひなどの皮膚炎や感染症を合併してしまう恐れもあるため、子どもは特に注意が必要です。
症状は1〜2週間ほどでおさまっていくことが多いのですが、痒みや腫れが強い場合は、早めに皮膚科を受診しましょう。

毛虫皮膚炎の対処法

毛虫に触れてしまったことに気づいたら、刺されたところに残っている可能性のある毛をできるだけ早く取り除くことが重要です。患部がはっきりしていればガムテープなどで除去したり、流水でよく洗い流しましょう。また、衣類にも毛が付着していることが多いので、触らないように気をつけて脱ぎ、すぐに洗濯をします。他の衣類とは分けて洗い、1回では取りきれない可能性もあるため、数回洗うと安心でしょう。
自宅などにいる時に赤みや痒み、腫れが出てきたら、冷やすことが有効です。また、市販薬で症状を和らげることもできますが、痒みが強い場合や、赤み、腫れが広範囲にみられる場合は特に早めに医療機関を受診しましょう。
病院ではステロイドの外用薬を処方されることが一般的です。痒みが強い場合には、抗アレルギー薬の内服薬を併用することもあります。患部が気になってつい触ってしまったり掻きむしったりすることで症状が悪化してしまうため、清潔なガーゼで保護することもあります。

気になる疑問(1)毛虫皮膚炎は痕が残る?

毛虫皮膚炎の症状は、適切な対処を行えば1〜2週間程度で落ち着き、痕も残りません。ただし、症状が長引いたり、強く掻きむしったりしてしまうと、茶色いシミのような痕が残ってしまうことがあります。これは「炎症後色素沈着」と呼ばれるもので、炎症などによって肌が傷ついた時に、自然治癒の過程でメラニン色素が沈着して起こるものです。毛虫皮膚炎だけでなく、ニキビややけど、切り傷ができた時などにも見られ、通常は数ヶ月〜半年ほどで消えていきますが、炎症がひどい場合にはシミとして残るケースもあります。痕を残さないためには、患部をできるだけ触らず、早めに対処することが肝心です。

気になる疑問(2)毛虫皮膚炎は人にうつる?

毛虫皮膚炎は他の人にうつるものではありません。赤いブツブツが出ている皮膚に触れたからといって発症することはありませんが、刺された直後は皮膚に毒毛が残っていることがあります。そのため、皮膚に残っている毛に触れたりすれば周囲の人も同じ症状が出てしまう可能性はあるので、注意しましょう。

チャドクガなどの毛は非常に細く、衣類も通り抜けるため、気づかないうちに刺されていることも少なくありません。急に発疹や痒みが出た場合は、毛虫皮膚炎の可能性も考え、適切に対処しましょう。

まとめ

  • 毛虫皮膚炎は、蛾の幼虫である毛虫の毒毛に触れることによって生じる皮膚炎
  • 皮膚炎の原因となる毒毛を持つ蛾や蝶の仲間は、日本に50種類ほどいる
  • 毒毛のタイプには、有毒毛(ゆうどくもう)と毒棘(どくきょく)の2種類がある
  • 毛虫皮膚炎の原因となる代表的な蛾は、有毒毛を持つチャドクガである
  • 毛虫に直接触れていなくても、風にとばされた毛が原因で皮膚炎を発症することもある
  • ドクガ類の有毒毛に触れると、赤いブツブツや強い痒みの症状が出る
  • 毛虫に触れてしまった場合は、ガムテープや流水で毛をすぐに除去することが重要
  • 患部を掻いてしまうと症状が悪化するため、冷やして早めに医療機関を受診するほうが良い
  • 病院ではステロイドの外用薬や抗アレルギー薬の内服薬が処方されることもある
  • 炎症がひどかったり、患部を強く掻いたりしてしまうと炎症後色素沈着が数ヶ月残ることもある
  • 他人が発疹に触れるとうつるものではないが、残っている毒毛に触れると症状が出てしまうため注意が必要