カイロや湯たんぽによる「低温やけど」。症状や処置方法、受診の目安について

執筆:井上 愛子(保健師・助産師・看護師)

冬場にカイロや湯たんぽを使っている時に、皮膚がヒリヒリしたり赤くなったりしたことはありませんか。その原因は「低温やけど」かもしれません。放っておくと通常のやけどよりもひどくなる場合もある低温やけど。その症状や対処方法などについて解説します。

「低温やけど」とは

そもそもやけどは、医学的には「熱傷(ねっしょう)」と呼ばれ、その程度はⅠ度、Ⅱ度、Ⅲ度の三段階に大きく分類されています。皮膚は外側から表皮、真皮、皮下組織という構造をしていて、やけどの程度によって症状の及ぶ範囲が異なります。

〇Ⅰ度

表皮までの軽いやけどです。皮膚に少し赤みが出る程度で、痕(あと)もほとんど残りません。

〇Ⅱ度

皮膚の損傷が真皮にまで及び、深さによってさらに2つ(浅達性Ⅱ度、深達性Ⅱ度)に分けられます。多くの場合、水ぶくれができてヒリヒリとした強い痛みを伴います。

〇Ⅲ度

皮膚の損傷が皮下組織にまで及びます。神経もダメージを受けるため、逆に痛みを感じないのが特徴で、治るまでに時間がかかり、皮膚の切除や移植を余儀なくされるケースもあります。

このようなやけどは、一般的に沸騰しているお湯をかぶったり、火に触れてしまったりするなど、高温のものに接触して起こってしまうイメージがあるでしょう。けれども、実はそれほど温度が高くない40~55℃程度のものでも、長時間触れているとやけどを引き起こすことがあります。このようなやけどを「低温やけど」または「低温熱傷」と呼びます。

低温やけどの特徴

料理中にやかんや鍋に触れてしまったり、ストーブやアイロンに当たったりするなど、日常生活で非常に熱いものに接触して起こるやけどはすぐに気がつくため、即座に熱源から離れて対処することができ、影響が軽くすむこともあります。
一方、40~55℃程度のものに長時間触れることで生じる低温やけどは、すぐには気がつかないことが特徴です。たとえば、寒い時季にこの温度帯の湯たんぽや電気あんか、使い捨てカイロなどを使うことがあるでしょう。心地よいため、つい触れ続けてしまうことも少なくありませんが、素肌に数分〜数時間触れていると、自覚症状のないまま皮膚の奥のほうにじわじわとダメージが拡がってしまいます。「低温」という名前から、やけどの程度も軽いのでは、と思われがちですが、低温やけども重症化したり、高温のやけどより治りにくくなったりすることがあります。
多くの場合、低温やけどが発症してすぐ見られる症状は、赤みや痛み、水ぶくれなどです。その後2週間ほどすると、患部の血流が悪くなって細胞が壊死し、皮膚が黒ずんだようになっていきます。数ヶ月〜数年経っても、皮膚がひきつれたようになったり、白っぽい痕が残ったりすることが多く、低温やけどのほとんどがⅢ度に達すると言えます。

低温やけどの起こりやすい状況と注意点

低温やけどが起こりやすいのは、カイロや湯たんぽ、電気あんか、こたつといった暖房器具を使う機会が多い冬場です。低温やけどは気がつかないうちに発症しやすく、特に寝ている間、無意識に暖房器具に触れてやけどが起こるケースが少なくありません。
低温やけどを防ぐために、次のことに気をつけましょう。

  • 湯たんぽや電気あんか: 就寝時には布団から出すか、身体から離して置くようにしましょう。
  • こたつや電気ストーブ: つけっぱなしにせず、室内がある程度温まったら一度電源を切ることが大切です。
  • 貼るタイプの使い捨てカイロ: 衣類の上から貼り、肌に直接触れないように注意しましょう。
  • ノートパソコン: バッテリーが熱くなり、低温やけどを引き起こすことがあります。長時間パソコンを膝の上に置いて作業する場合は要注意です。

低温やけどに特に注意したい人

低温やけどは、皮膚の薄い高齢者や乳幼児に起こりやすいとされています。特に寝返りなど身体を動かすことが十分にできない乳児や、知覚・運動能力に麻痺がある人は、周囲の配慮が必要です。
加えて、糖尿病などで末梢神経障害を合併している人や、アルコールを摂取し熟睡している人も低温やけどが起こりやすくなります。このような人は、周囲の人も含めてカイロや暖房器具の取り扱いに十分気をつけましょう。

低温やけどの対処法

その特徴や注意点を知っていても、じわじわとダメージが拡がる低温やけどは、気がつかないうちに進行していることがあります。痛みや赤み、水ぶくれなどの症状が出て低温やけどに気づいた際には、まず流水で冷やしましょう。10〜30分間を目安に、水道水を出しっぱなしにして直接患部にかけます。皮膚への損傷が抑えられるわけではありませんが、冷やす応急処置をとることで痛みや赤みの症状を軽減することができます。なお、保冷剤などをあてて氷で冷やすと、凍傷になることもあるため、常温の流水を使いましょう。
また、水ぶくれができている場合は、可能な限り破らないように気をつけましょう。気になって水ぶくれを潰すと、そこから雑菌が侵入し症状が悪化することがあります。
さらに、低温やけどは見た目では重症度を判断しづらいやけどです。軽いやけどのように思えても、皮膚が壊死するほど深くまで損傷している可能性があります。自覚症状に関わらず、すぐに受診しましょう。
やけどの対処法として、民間療法や市販薬などもありますが、自己判断の処置では痕が残ったり重症化したりすることもあります。冷やす応急処置をとった上で、早めに医療機関を受診することが重要です。

まとめ

  • やけどは医学的には熱傷と呼ばれ、その程度は大きくⅠ度、Ⅱ度、Ⅲ度の三段階に分類される
  • 40~55℃程度のものに長時間触れることによって起こるやけどを「低温やけど」という
  • 低温やけどは、自覚症状のないまま皮膚の奥のほうにじわじわとダメージを与えることが多い
  • 初期の症状は赤みや痛み、水ぶくれなどで、時間の経過とともに細胞が壊死し、皮膚が黒ずむこともある
  • 低温やけどは皮下組織まで損傷するⅢ度になることが多く、痕が残りやすい
  • 低温やけどは、カイロや湯たんぽ、電気あんか、こたつなどの暖房器具が原因となりやすい
  • 暖房器具はつけっぱなしにせず、湯たんぽなども就寝時は布団から出すか、身体から離して置く
  • 皮膚が薄い高齢者や乳幼児、麻痺のある人、アルコール摂取後などは特に注意が必要
  • 低温やけどに気づいたら、まず流水で十分に冷やすこと
  • 低温やけどは重症度がわかりづらいため、自己判断で様子をみず、すぐに皮膚科を受診すること