医療コラム
乾燥する冬に増える皮脂欠乏性皮膚炎。原因と対策、治し方について解説。
冬が近くなると増える皮膚の乾燥や痒みなどのお悩み。このような乾燥による皮膚の炎症は「皮脂欠乏性皮膚炎」といって皮膚科での治療が必要になるケースもあります。ところが、「毎年のことだから仕方ない」とあきらめている人が多く、その結果、炎症がさらに強くなったり、ひっ掻き傷が原因で色素沈着を起こすことも。そうならないために、原因や対策、治し方について確認しておきましょう。
皮脂欠乏性皮膚炎とは
皮脂欠乏性皮膚炎とは、皮脂が減ることで皮膚の水分をキープする力が低下して乾燥し、かさつきや痒み、赤み、痛みなどの症状が生じる状態を指します。乾燥がひどくなると、皮膚表面の角質が剥がれ落ちてカサカサしたり(鱗屑:りんせつ)、いわゆるサメ肌と呼ばれる状態になったりします。「皮脂欠乏症」や「乾皮症(かんぴしょう)」と呼ばれることもあり、すねや腰回り、太ももなどは症状の出やすい部位です。
皮膚の乾燥というと水分量が減ることだけが原因と考えられがちですが、実は皮脂の減少も大きく関わっています。というのも、皮脂は汗などと混ざって皮脂膜を形成しているからです。皮脂膜は皮膚の表面を覆っていて、バリア機能として皮膚内の水分が外に逃げていかないようにしたり、外部の刺激から守っています。逆に言うと、皮脂が減少するとバリア機能の低下につながるということです。
バリア機能が低下すると、肌が乾燥するだけでなく様々な刺激に敏感になり、皮膚炎が起こりやすい状態になります。さらに、皮膚炎が起こると痒みを伝える皮膚の神経線維が成長して皮膚表面にまで伸びてきます。すると、少しの刺激でも痒みを感じるようになり、それを掻きむしってさらに皮膚炎の症状が悪化する、という悪循環に陥りやすくなるのです。また、ひっ掻いた部位が色素沈着を起こすことがあり、長期にわたって痕が残ってしまうこともあります。
では、なぜ皮脂は減少してしまうのでしょうか?
皮脂欠乏性皮膚炎の原因:皮脂が減少するのはなぜ?
皮脂が減少する原因はいくつか考えられます。具体的に見ていきましょう。
〇加齢
皮脂量は20代頃をピークに減少していきます。また、年齢を重ねると汗を分泌する汗腺の機能も低下してくるため、皮脂膜が作られにくい状態になっていきます。こうした理由から、高齢者には皮脂欠乏性皮膚炎で悩む人が多く、ひどい場合には痒みで眠りが妨げられたり、衣類の擦れさえも不快に感じたりするようになります。このような加齢に伴う皮脂欠乏性皮膚炎は、「老人性乾皮症」とも呼ばれています。
〇空気の乾燥
冬になると空気が乾燥し、肌の水分蒸発量が増加します。また、皮脂自体の分泌量も夏に比べると低下するため、乾燥による皮膚炎が起こりやすくなります。特に最近では、冬になると室内でも暖房器具を使うことが一般的になっていますが、これらの使用も空気の乾燥や皮膚炎の悪化に関係しています。
〇間違ったスキンケア
顔や身体をゴシゴシと力を入れて洗ったり、洗顔や入浴の際に熱いお湯を使用したりすると、皮脂が必要以上に取り除かれてバリア機能の低下を招く原因になります。また、皮脂を取り去る作用の強い洗浄剤を使うことが一因になることもあります。
〇病気
アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患だけでなく、糖尿病や慢性の腎臓病が原因になることがあります。たとえば、糖尿病では尿量が増えて脱水傾向になりますが、その影響で皮膚の水分量が低下して乾燥し、皮膚炎が起こりやすくなります。その他、抗がん剤治療や放射線治療、紫外線暴露療法など、別の病気の治療がきっかけになることがあります。
皮脂欠乏性皮膚炎の予防法と対策
皮脂欠乏性皮膚炎を防ぐためには、まずは原因を作らないことが重要です。もちろん加齢によるバリア機能の低下を完全に防ぐことは難しいのですが、保湿ケアを重点的に行い、乾燥しにくい肌作りをすることはできます。また、ケアの際には知らず知らずのうちに皮脂を取りすぎてしまわないように注意することも大切です。たとえば、次の点に気をつけてみましょう。
- 洗顔や入浴の際は熱いお湯は使わない(入浴はぬるめのお湯で短時間がおすすめ)
- 顔や身体を洗う際は、洗浄剤をよく泡立ててやさしく丁寧に行う
- 皮膚が敏感な時は洗浄力の強い洗浄剤は避ける
- 洗顔後や入浴後はすぐに保湿剤などでケアをする
- 水仕事の後などはハンドクリームなどでこまめな保湿ケアを心がける
また、空気の乾燥にも気をつけ、特に暖房器具を使う際には必ず加湿器を併用するなど、乾燥対策を徹底するようにしましょう。
こうした対策をしていても症状が出てしまった場合は、早めに対処することが肝心です。皮膚が少しかさつくなど、症状が比較的軽い場合には市販の保湿剤や薬を使用しながら様子を見ることも一つの方法です。ただ、症状が長引く場合や痒みや赤み、痛みなど、他の症状が出てしまった場合には、やはり皮膚科を受診するほうが安心です。病院に足を運ぶのが億劫に感じる人がいるかもしれませんが、適切な治療を受けたほうがかえって早く症状の改善につながるでしょう。
皮脂欠乏性皮膚炎の治し方
皮膚科ではまず保湿剤による治療が行われます。保湿剤には、水分の蒸発を防ぐことを目的としたもの(ワセリンなど)や、角質の水分を増加させる作用をもつモイスチャライザーなど(ヘパリン類似物質や尿素などを含むもの)があります。保湿剤にも様々な塗り心地のものがあるので、希望がある場合には医師に相談してみましょう。
あわせて、症状が強い場合にはステロイド外用薬や痒みを抑える抗ヒスタミン薬などが処方されることもあります。ステロイドと聞いて抵抗感を持つ人がいるかもしれませんが、適切な使用法を守ることで、症状を和らげることが可能です。心配な点は医師に確認しながら、納得したうえで治療を受けましょう。
冬になると、乾燥による肌トラブルが起きやすくなります。放っておくと症状が悪化したり、痕が残ったりしてしまうこともあるため、できるだけ早く皮膚科を受診しましょう。
まとめ
- 皮脂欠乏性皮膚炎とは、皮脂が減ることで皮膚の水分をキープする力が低下して乾燥し、痒みや赤み、痛みなどの炎症症状が生じる状態
- 皮脂膜はバリア機能として皮膚内の水分が外に逃げていかないようにしたり、外部の刺激から守ったりしている
- 皮脂が減少してしまうとバリア機能の低下につながる
- 皮膚炎が起こると痒みが強くなりやすく、掻くことで症状悪化の悪循環に陥りやすくなる
- 皮脂が減少する原因には、加齢、空気の乾燥、間違ったスキンケア、病気などが挙げられる
- スキンケアの際は熱いお湯を使わない、やさしく丁寧に行う、洗浄力の強い洗浄剤は避ける、保湿ケアをすぐにする、水仕事の後はこまめなケアを心がける
- 症状が出てしまった場合、軽症なら市販薬などで様子を見ることも方法の一つだが、症状が長引く場合やかさつき以外の症状が出ている場合は皮膚科を受診するほうがよい
- 皮膚科では保湿剤、外用薬、場合によっては飲み薬による治療が行われる