男性型と女性型脱毛症の原因の違いとは?皮膚科でできる薄毛治療と対策について

執筆:南部 洋子(助産師・看護師・タッチケア公認講師)

男女問わず薄毛で悩んでいる人は少なくないと思います。
近頃では、テレビ番組やCMなどの影響で「薄毛は病院で治療できる」ことが認知されてきていますが、具体的にどのような治療ができるのでしょうか。
今回は皮膚科でできる薄毛対策をご紹介します。

薄毛とは?

薄毛と聞くと、毛が抜ける「脱毛」をイメージされるかもしれません。しかしながら、「脱毛症」には実際に毛が抜ける病気から、毛量自体は減らず毛が細くなる『軟毛化』によって、髪が減ったように見えるタイプまで多種多様です。病気で毛が抜ける原因には、円形脱毛症やトリコチロマニア(抜毛癖)、全身の病気や薬による脱毛などが挙げられます。一方、軟毛化がもたらす脱毛症でよく知られているのは、「男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia、AGA)」です。一般に加齢にともなう「薄毛」というと、この男性型脱毛症を指すことが多いようです。

毛髪は皮膚の皮下脂肪内の毛包から伸びています。毛包には毛髪のもとになる「毛母細胞」があり、細胞分裂を繰り返すことで毛は伸びていくのです。ただし、毛髪は伸び続けるわけではなく、毛周期というサイクルによって生え変わっています。ぐんぐんと伸びている時期「成長期」が過ぎると毛髪の成長は止まり、毛包が小さくなっていきます(退行期)。やがて、毛髪の成長は完全に止まり「休止期」を迎えます。「休止期」は毛包に新しい毛母細胞が作られ、新しい髪が再び伸びる準備期間にも当たります。そしてまた、成長期に入るのです。
このように、健康な人でも毛髪は「作られる」「抜ける」「また作られる」...というサイクルを繰り返します。しかし、男性型脱毛症になると、毛包がまだ小さく、毛髪が細く短いうちに退行期に入ってしまい、休止期の毛包が多くなります。そのため、太く長い毛髪が少なくなり、いわゆる「薄毛」の状態に陥るのです。

男性型脱毛症の原因とは?

男性型脱毛症の原因には男性ホルモンが関係しています。男性ホルモンは、筋肉をつける、体毛を濃くする、といった作用を持っていますが、なかでも頭頂部や前頭部の毛包に対して、毛母細胞の増加を抑制する働きをします。ただし、すべての人が男性型脱毛症になるわけではなく、遺伝的な要因が大きく関係しているようです。日本人では男性の3人に1人が男性型脱毛症といわれており、早い人では20代後半から発症し、加齢にともない発症頻度は増加します。

男性型脱毛症の治療法

冒頭でもお伝えしたように、最近はメディアなどの影響で「脱毛症」が皮膚科などの医療機関で治療できることが広く知られるようになりました。それでは、実際にはどのような治療法があるのでしょうか。

男性型脱毛症の治療には、内服薬や外用薬、植毛などの方法があります。

〇 内服薬

日本皮膚科学会のガイドラインでは、男性型脱毛症に効果的な内服薬として「フェナステリド」と「デュタステリド」の2種類が勧められています。この2つは実験によって男性型脱毛症に対する効果が認められていますが、日本では20歳未満の男性に対する安全性は確認されていません。
なお、まれに海外から個人輸入をして薬を服薬している人や、決められた量以上に服薬している人がいます。しかし、日本で安全性が確認できていない薬も見受けられますので、必ず受診をして医師が処方した量を守って服用するようにしましょう。

〇 外用薬

同ガイドラインでは「ミノキシジル」という外用薬が勧められています。ミノキシジルには毛母細胞の増殖を促進する作用があると考えられています。なお、ミノキシジルはもともと海外で降圧剤(内服薬)として開発されました。副作用に「多毛症」が見られたことから、男性型脱毛症の内服薬として安易に処方する医師や、個人輸入して服用する人がでてきたのです。しかし、ミノキシジルを内服薬として用いるメリットやリスクについては明確になっていないため、同ガイドラインにおいても「内服を行うべきではない」とされています。
なお、ガイドラインの推奨度はミノキシジルより低くはなりますが、このほかにも「アデノシン」「カルプロニウム塩化物」など、複数の外用薬が治療に使われています。

〇 植毛

「自毛植毛術」は、内服薬や外用薬で効果が得られないケースで、自分の毛髪を頭髪の薄い部分に移植するという方法です。これにはいくつかの種類がありますので、希望する場合は医師と相談して決めるとよいでしょう。なお、人工毛の移植は、有害な症例が報告されていることもあり、同ガイドラインでは「行うべきでない」とされています。

このほか、再生医療として自分の濃厚血小板血症(PRP)を頭皮に注入する方法(PRP療法、PRP再生医療など)や、健康な人の脂肪組織由来の幹細胞を培養し、抽出した物質を注入する方法(HARG療法)などが行われるようになってきています。これらについて日本皮膚科学会は、「期待される治療法」としながらも、安全性や有効性が確立されていないことや、一般の施設で広く行える治療法ではないことから、「行わない方がよい」という表現にとどめています。しかしながら、実際にはこれらの治療を実施している医療機関もあります。そのため、再生医療による治療を受けたい人は、医療機関できちんと説明を聞き、安全性や副作用を確認し、自分の希望なども伝えたうえで検討してください。

女性の薄毛「女性型脱毛症」とは

「薄毛」と聞くと男性がなるものと思っている人も多いでしょう。ところが、昨今薄毛に悩む女性は少なくありません。女性の薄毛も男性と同様に毛包が小さくなり毛髪が細く短くなるため、かつては男性型脱毛症と同じであると考えられていました。しかし、更年期以降に発症しやすい、頭頂部の広い範囲に起こりやすい、必ずしも男性ホルモンの影響とはいえない、男性型脱毛症の治療薬であるフェナステリドが効かないかつ有害、などの理由から、男性型脱毛症とは別物と見なされるようになり、病名も「女性型脱毛症」と呼ばれるようになりました。

女性型脱毛症は、男性型脱毛症に有効なフェナステリドやデュタステリドなどの内服薬が有効ではなく、妊娠中や授乳中は禁忌とされています。ですから、おもな治療法は外用薬になります。
また、頭皮に注入をする再生医療を女性型脱毛症の治療として実施している医療機関もあります。治療を選択するにあたっては、医師と相談し、効果だけではなく副作用などのデメリットも確認するようにしましょう。

なお、女性の薄毛には産後のホルモンの影響なども考えられます。産後の授乳中などは使えない薬も多いので、薄毛で悩んでいる人はまずは皮膚科を受診しましょう。

まとめ

  • 脱毛症には、実際に毛が抜けるタイプと、毛量は減らずに毛が細くなる(軟毛化)タイプがあり、一般的に後者が薄毛といわれる
  • 軟毛化による薄毛の代表が男性型脱毛症
  • 毛髪には、成長期、退行期、休止期という毛周期がある
  • 男性型脱毛症では、成長期の途中で退行期に入り、休止期状態の毛髪が増えてしまう。その結果、太く長い毛は少なくなり、薄毛になる
  • 男性型脱毛症は男性ホルモンの影響が大きいが、遺伝的な要因も強く関係している
  • 男性型脱毛症の治療として、内服薬(フェナステリド、デュタステリド)、外用薬(ミノキシジルなど)、植毛などの方法がある
  • 最近では再生医療を使った方法もあるが、安全性や有効性の観点から日本皮膚科学会では「行わない方が良い」としている
  • 再生医療による治療を受けたい場合は、実施している医療機関に相談し、メリットやリスクをふまえた上で選択する
  • 女性の薄毛は、かつては男性型脱毛症と同じと考えられていたが、現在は「女性型脱毛症」と呼ばれている
  • 女性型脱毛症は、男性型脱毛症の内服薬が使えないため、外用薬を使った治療がメインである
  • 女性型脱毛症に対しても、再生医療を使った治療が行われているが、男性型脱毛症と同じく医療機関でよく相談したうえで検討すること