もしかして花粉皮膚炎?春や秋の肌荒れは花粉症の一種かも

執筆:吉村 佑奈(保健師・看護師)

花粉症といえば、くしゃみや鼻水、目のかゆみなどが代表的な症状ですが、実はそれだけではありません。もし、春や秋などに肌荒れがひどくなるという方は、花粉皮膚炎の可能性が考えられます。今回は、花粉の飛散量が多くなる前に知っておきたい、花粉皮膚炎の症状や治療法についてご説明します。

花粉皮膚炎とは?

花粉が原因で皮膚に炎症ができる病態を花粉皮膚炎といいます。花粉皮膚炎は、アトピー性皮膚炎を発症している人が花粉によって皮膚の症状が悪化するタイプと、基礎疾患がないのに花粉が飛散する時期だけ皮膚炎を発症するタイプの、大きく2つに分けられます。今回は、とくに後者に着目して解説します。
アトピー性皮膚炎を持病としないタイプの花粉皮膚炎では、春先や秋など、スギなどの花粉が多く飛ぶ時季に限って症状が現れます。そして、花粉の飛散が終わるとともに症状も落ち着く、という特徴があります。とりわけ目の周りや頬といった、顔や首など肌が露出している部分に、蕁麻疹のような赤みをともなう湿疹が表れます。花粉皮膚炎の患者の血液検査をすると、花粉への抗体値(花粉が体内に侵入したときに、体外から排除しようとして作られる物質の値)が高いことがわかっていて、これは花粉症の患者と同じです。つまり、花粉症の症状の一つとして、皮膚の症状が出現しているということになります。
花粉皮膚炎の原因として多いのはスギ花粉ですが、最近ではブタクサやシラカバなど、スギ以外の花粉を原因とする症例も報告されています。

なぜ花粉で皮膚炎になるの?

花粉皮膚炎の詳しい原因はまだ解明されていませんが、皮膚に備わるバリア機能の低下によって発症するケースが多いことはわかっています。バリア機能には、ホコリや花粉といった外の刺激から皮膚を守る重要な役割があります。ところが、何らかの原因でこのバリア機能が低下しているときに花粉が皮膚に入り込み、それを排除しようとしてアレルギー反応が起こります。その結果、皮膚炎を発症するのではないか、と考えられています。

花粉皮膚炎を調べる方法

花粉皮膚炎は、特定の季節だけに発症することや、花粉に対する抗体を持っている人が発症することなどから、比較的診断がしやすいといわれています。しかし、目の周辺に皮膚炎が現れるケースなどは、点眼薬が原因となる接触性皮膚炎などの可能性も考えられ、ほかの病気との鑑別が難しいこともあります。そのため、場合によってはスクラッチパッチテストを採用して、確定診断を行います。スクラッチパッチテストとは、花粉の抗体を含む試液を皮膚に付着させ、その部位を針で軽く引っかいて時間をおき、その後の皮膚の反応を見る検査法です。必要に応じてこうした検査を取り入れながら、皮膚炎の診断が行われます。

花粉皮膚炎の治療と対処法

花粉皮膚炎は、今のところ根本的な治療法がないため、症状に応じた対症療法が中心になります。治療薬としては、抗ヒスタミン薬が用いられるほか、皮膚の症状に合わせてステロイドの塗り薬や、保湿剤などが処方されます。また、花粉皮膚炎の症状は、露出していて花粉にさらされた部分に出現しますので、眼鏡やマスク、マフラー、ストールなどで皮膚を覆うことで、予防や悪化の防止につながります。衣類やシーツなど、屋外に干した洗濯物を取り込む際も花粉をしっかり落とし、入浴時は髪や身体についた花粉をよく洗い流すようにしましょう。
ここまではほかの花粉症対策と同じですが、花粉皮膚炎の場合は、さらに皮膚のバリア機能を高めることも重要です。お伝えしたように、花粉皮膚炎は皮膚のバリア機能との関係が深いので、誤ったスキンケアが引き金となる可能性も考えられるからです。次項では、日常のスキンケアにおけるポイントをお伝えします。

花粉皮膚炎を防ぐために:スキンケアを見直そう

皮膚についた花粉を落とそうとして、クレンジングや洗顔の際に力を入れてゴシゴシと洗ったり、1日に何度も洗顔をしたりする方法は誤りです。かえって皮膚のバリア機能を壊してしまい、花粉皮膚炎の悪化を招く要因になりかねません。クレンジングや洗顔は多くても1日2回程度にとどめ、洗顔はできるだけ優しく行いましょう。また、洗顔時に熱いお湯を使うと、必要な皮脂まで取り過ぎることになり、バリア機能の低下につながります。寒い日でもぬるめの温度に設定しましょう。
さらに、クレンジング剤や化粧品などの選び方も大切なポイントの一つです。たとえば、皮膚炎が出やすい人は、オイルタイプなどのクレンジング剤よりも、ミルクタイプやジェルタイプの方が皮膚への負担を軽減できます。シャンプーやリンス、化粧品なども、できるだけ皮膚への刺激が少ない製品を選ぶようにしましょう。

花粉皮膚炎:気になる症状がある場合は専門家に相談を

毎年、花粉症の季節になると皮膚が赤みを帯びる、敏感になるなど、気になる症状がある人は、ぜひ皮膚科を受診して医師に相談してみましょう。とくにスギ花粉が多く飛ぶ春先は、季節の変わり目で1日の気温差も大きく、そもそも体調不良や皮膚のトラブルが生じやすい時季でもあります。そのため、素人では原因を判別するのは難しく、自己判断による対処は、むしろ症状を悪化させてしまうかもしれないのです。
花粉症の人にとっては、ただでさえストレスが多い春や秋。原因を明確にして正しく対処することで、症状を少しでも和らげ、憂うつな花粉症シーズンを乗り切りましょう。

まとめ

  • 花粉が原因で起こる皮膚炎を花粉皮膚炎という
  • 花粉皮膚炎には、アトピー性皮膚炎の持病がある人が合併するタイプと、そのような持病がないのに発症するタイプに分けられる
  • アトピー性皮膚炎がない花粉皮膚炎の特徴として、花粉が多く飛ぶ時季にだけ症状が現れること、目の周り、頬、首など、肌が露出している部分に赤みをともなう湿疹が出ること、花粉に対する抗体を持っていることなどが挙げられる
  • 詳しい原因は解明されていないが、バリア機能が低下した皮膚に花粉が入り込むことでアレルギー反応が起こり、皮膚炎を発症すると考えられている
  • 花粉皮膚炎を鑑別するために、場合によってはスクラッチパッチテストを行う
  • 現時点では花粉皮膚炎の根本的な治療法はないため、症状に応じた対症療法が中心となる
  • 対症療法では、抗ヒスタミン薬やステロイドの塗り薬、保湿剤などが処方される
  • 日常生活で行える対処法としては、眼鏡やマスク、マフラーなどで皮膚の露出面を減らすこと、洗濯物は花粉を落としてから取り込むこと、入浴時は花粉をよく洗い流すことなどに加え、皮膚のバリア機能を高めるスキンケアが有効である
  • 日々のスキンケアでは、過度なクレンジングや洗顔を控えて優しく行い、化粧品などは刺激の少ない製品を選んで、バリア機能を低下させないように注意する
  • 季節の変わり目である春先や秋は、体調不良や皮膚のトラブルを招きやすく、素人には花粉皮膚炎かどうかの判別が難しいので、気になる症状がある場合は皮膚科の受診をおすすめする