耳や鼻のしこり、粉瘤(ふんりゅう)かもしれません。 手術の必要性や治療方法について解説

執筆:吉村 佑奈(保健師・看護師)

耳や顔などにできるしこり。その正体は「粉瘤(ふんりゅう)」かもしれません。粉瘤は良性の皮膚疾患ですが、再発しやすいことから、手術が行われることも珍しくありません。そこで今回は、粉瘤の治療法について解説します。

粉瘤とは

粉瘤は、皮膚の中にできる良性の嚢腫です。皮膚の一部が変化して小さな袋状になり、その中に古い角質や皮脂などがたまることで、しこりを形成します。次のように、粉瘤にはいくつかの種類があり、しこりのできやすい場所が異なります。

  • 表皮嚢腫(アテローム、アテローマ):全身のあらゆる場所にできるが、とくに耳の後ろや顔、首、背中などに発生することが多い
  • 外毛根鞘性嚢腫(がいもうこんしょうせいのうしゅ):頭部を中心にしこりが現れる
  • 多発性毛包嚢腫(たはつせいもうほうのうしゅ):腕やわき、首にしこりが多発する

ほかにも種類はありますが、一般的に粉瘤というと、表皮嚢腫を指すことがほとんどです。表皮嚢腫の場合、しこりの大きさは数ミリメートルから数センチメートルで、急激に大きくなることは基本的にはありません。また、痛みなど炎症症状を伴わないことが多く、こうした場合はとくに治療を行わずに、経過を観察することがほとんどです。ただし、中には感染して炎症を起こすことがあり、しこりが急激に大きくなったり、痛みや赤みなどが強く出る場合があります。また、増大したしこりは、最終的に自然に破裂することがあり、破れると中から独特な臭いのする内容物が出てきます。しこりが破裂すると、症状はいったん落ち着いたように見えますが、適切な治療を受けないと再発する可能性が高まります。
ちなみに、粉瘤(表皮嚢腫)の原因について詳しいことはわかっていませんが、手足にできるものの中には、ヒトパピローマウイルスへの感染や、外傷、手術痕がきっかけで発生するもののあることがわかっています。また、そのほかの場所にできる粉瘤については、体質が大きく影響しているという見方があります。

粉瘤の治療法(1)痛みや赤みを伴わない場合

お伝えしたように、粉瘤は痛みや赤みなどの症状が出ていない場合には、とくに治療を行わないことが珍しくありません。ただし、顔など目立つところにできることがあるので、見た目上の問題で治療が行われるケースがあります。
とくに痛みなどがなく、感染などの可能性が低い場合には、手術を行うことが一般的です。手術と聞いて不安に思う人がいるかもしれませんが、基本的には日帰りで受けることができます。所要時間は30分ほどで、手術中は局所麻酔が行われます。手術をした部位は縫合して傷を閉じるので、1週間後に抜糸のための通院は必要になりますが、とくに問題がなければ、ふだん通りの生活を行うことができます。
ちなみに、最近では「へそ抜き法」といって、縫合や抜糸をしない手術法も行われています。へそ抜き法は、しこりとつながっている皮膚の中央に専用の機器を刺しこみ、内容物を取り除く方法です。従来の方法に比べて手術時間が短く、また、傷痕が小さいというメリットがあります。その反面、縫合を行わないことから、傷が修復するまでに数週間ほどの時間がかかります。また粉瘤の状態によっては、へそ抜き法による手術を行えない可能性もあります。

粉瘤の治療法(2)痛みや赤みを伴う場合

感染や炎症を起こしている場合、すぐに手術で切除できない可能性があります。こうしたケースでは、まずはほかの治療を行い、ある程度、しこりを小さくしてから手術を行うことになります。たとえば、炎症が軽い場合には抗生物質を内服して、しこりが小さくなるのを待ちます。一方、炎症が強い場合には、患部を切開して中にたまった膿を取り出すことが必要になります。切開した場所は、ガーゼを入れて消毒します。ガーゼの交換が必要になるため、切開後、数日間は通院が必要になります。1~2週間ほど経過したら、ガーゼを取り除き、自然に傷がふさがるのを待ちます。膿がきれいに取り除かれると、しこりは小さくなりますが、そのままにしておくと再発する可能性があります。再発を防ぐためには、先ほどご紹介したように、手術が必要になります。

しこりに気づいたら、皮膚科受診を

お伝えしたように、粉瘤は良性の皮膚疾患で、痛みなど炎症症状を伴わないものに関しては早急な治療は必要とならないことがありますが、それでも顔や身体にしこりを見つけたときには、まずは皮膚科を受診することをおすすめします。というのも、粉瘤以外にもしこりを症状とする皮膚疾患があり、その一部には悪性化してがんになるものがあることがわかっているからです。全体で見ると、こうした症例はごく稀なのですが、自分では良性なのか、悪性のリスクがあるかを判断できませんから、やはり病院で診察を受けるようにしましょう。とくに皮膚疾患は、素人では判別できないものが多いですから、自己判断で様子をみたり、誤った対処をして悪化させないように注意しましょう。

まとめ

  • 粉瘤は、皮膚の中にできる良性の嚢腫で、皮膚の一部分が変化して小さな袋状になり、その中に古い角質や皮脂などがたまることで、しこりを形成する
  • 粉瘤にはいくつかの種類があるが、代表的なものは「表皮嚢腫」
  • 表皮嚢腫の場合、しこりの大きさは数ミリメートルから数センチメートル
  • しこりが急激に大きくなることは基本的にはない
  • 痛みのないことが多いが、感染して炎症を起こしていると痛みや赤みが増したり、しこりが急激に大きくなることがある
  • 再発を防ぐためには手術が必要
  • 感染や炎症を起こしていなければ、手術を行える
  • 手術の所要時間は30分ほどで、日帰りで受けられる
  • 縫合や抜糸を行わない「へそ抜き法」という手術法もあるが、しこりの状態によっては行えないことがある
  • 感染や炎症を起こしているものは、ほかの治療を行ってしこりを小さくしてから手術を行う
  • 皮膚疾患は素人には判別できないので、しこりを見つけたら皮膚科を受診したほうがよい