治らない円形脱毛症は皮膚科へ。期間や脱毛面積で異なる治療方法について解説

執筆:井上 愛子(保健師・助産師・看護師)

なかなか治らない円形脱毛症。誰にも相談できずに我慢したり、セルフケアで様子をみていませんか?円形脱毛症は、皮膚科で治療を受けることができる病気です。そこで、治療の期間や治療方法について解説します。

円形脱毛症とは、どんな病気?

「脱毛症」という用語は幅広い意味で用いられていますが、一般的にイメージされるのは「男性型脱毛症」でしょう。おもに加齢やホルモンバランスの影響で髪の毛が細く短くなり、その結果、髪が薄くなったように見えるものを指します。早い人では10代後半〜20代にかけて発症します。「男性型」という名前がつきますが、女性の脱毛症でも同じような症状が出ることがあります。
これに対して「円形脱毛症」は突然髪の毛が抜ける病気で、性別や年齢を問わず、場合によっては子どもでも発症します。最も多い症状は、10円玉くらいの大きさの脱毛斑(髪の毛が抜け落ちた跡)ですが、ほかにもさまざまな種類があり、脱毛の個数と範囲の広さで重症度が判定されます。

重症度別!円形脱毛症の種類

円形脱毛症は、症状の程度によって次の種類に分けられています。

〇軽症

脱毛の範囲が頭部全体の25%未満。円形や楕円形の脱毛が1か所のみの場合は「単発型」、2か所以上の場合は「多発型」と呼ばれます。

〇重症

脱毛の範囲が頭部全体の25%以上。多発型の数が増えたタイプや、耳の周りや後頭部の首筋近くの生え際に沿って蛇行するように脱毛が起こる「蛇行型」、頭の髪がすべて抜け落ちる「全頭型」があります。さらに、髪の毛以外にも眉毛やまつげ、わき毛など、身体中の毛が抜け落ちるタイプは「汎発型」と呼ばれます。

円形脱毛症は自己免疫性疾患

円形脱毛症はこれまでストレスが原因、と考えられがちでしたが、免疫が異常に働くことで起こる「自己免疫性疾患」の一つであることが明らかになってきました。
髪の毛は、地肌から出ている「毛幹部分」と地肌の中にある「毛包」部分とに分けられ、毛包の一番下にある「毛球」で作られています。髪の毛には成長サイクルがあり、健康な毛髪は2〜6年かけて伸び続ける「成長期」を経て、次の毛が生える準備期間の「退行期」に移行します。そして、毛穴の奥で新しい毛の成長が進むと、古い毛が押し出され抜けていく仕組みになっています。
ところが、何らかの理由で過剰な自己免疫反応が起こると、毛包が炎症して脱毛を引きおこすことがあります。炎症が起こる理由はまだ解明されていませんが、ストレスや睡眠不足、疲労、体調不良、出産などが関係していると言われています。つまり、ストレスはあくまで誘引の一つに過ぎないということです。また、体質も関係あるとされていて、さらなる研究が進められています。

円形脱毛症:症状の特徴

円形脱毛症は、軽症で脱毛斑が少なければ、治療を行わなくても自然に治ることが多いのですが、重症化すると治療に時間がかかってしまいます。ですから、治療を長引かせないためには、早めに発見し、適切なケアにつなげることが重要です。そのためにも、円形脱毛症の代表的な症状を知っておきましょう。

  • 脱毛が突然始まった
  • 頭部の地肌が見えたり、周辺との境界が比較的はっきりした脱毛斑がある
  • 髪がゴワゴワする、頭皮がチクチクしたり、ピリピリするなど、いつもと違う感触がある

こうした症状が見られたときは、異常がないかどうか、確認しましょう。さらに、抜けた髪の毛の根元もチェック。毛包がついている場合は、自然に抜け落ちた健康な髪なので問題ありませんが、毛包がついていない場合は、円形脱毛症による脱毛の可能性も考えられます。そのほか、円形脱毛症を発症すると、爪の表面にボコボコとした小さなへこみができることもあります。
病気が進行すると、脱毛斑が拡がったり、朝起きたときに多くの髪が枕に付くようになる人もいます。円形脱毛症を早期に発見するためには、日頃から髪の毛や爪のケアに気を配り、変化を見逃さないことが肝心です。

円形脱毛症の治療法(1)軽症の場合

円形脱毛症の治療は、脱毛の期間や重症度、年齢などによって異なります。

たとえば、軽症の場合は次のような治療を3〜6か月程度行い、効果があるかどうかをみていきます。

〇塗り薬

代表的な塗り薬である「塩化カルプロニウム外用(フロジン液)」などには、皮膚の血管を拡張して血流を促す働きがあり、発毛機能を高めるために用いられます。また、炎症を取り除き、赤みやかゆみ、痛みを抑えるために、ステロイド薬を使うこともあります。

〇飲み薬

血流や造血機能に働きかける「セファランチン」などが処方されます。

〇光線療法

脱毛した部分に特殊な紫外線を当てて自己免疫反応を抑制する治療法です。

そのほか、マイナス200℃の液体窒素スプレーを患部に当てて頭皮に刺激を与える「冷却療法」や、脱毛している部分にステロイド薬を注射する「ステロイド局所注射(16歳以上が対象)」などが行われることもあります。

円形脱毛症の治療法(2)脱毛が長期に及ぶ場合など

お伝えした治療法で十分な効果が得られなかったり、脱毛が6か月以上続いていて、広範囲に及ぶ場合には「局所免疫療法」の対象となります。これは、脱毛している部分に化学物質を塗り、意図的に頭皮にかぶれを起こして脱毛を改善するものです。ただし、この治療法を行っている医療機関は限られていて、健康保険も適用されません。局所免疫療法に興味のある人は、まずは主治医に相談してみましょう。

円形脱毛症の治療は、効果や副作用を注意深く観察しながら治療を進めていく必要があります。円形脱毛症に悩んでいる人は、セルフケアで様子を見るのではなく、皮膚科で専門医の診察を受けるようにしましょう。

まとめ

  • 円形脱毛症は突然髪の毛が抜け落ちる病気で、年齢や性別を問わず発症する
  • 円形脱毛症は、自己免疫性疾患の一つである
  • 最も多い症状は10円玉程度の大きさの脱毛斑ができるものだが、脱毛の範囲はさまざま
  • 脱毛の仕方により、「単発型」「多発型」「蛇行型」「全頭型」「汎発型」といった種類に分けられる
  • 脱毛以外にも、髪の毛のごわつきや爪の変化といった症状を伴うこともある
  • 軽症の場合、自然治癒することもあるが、重症化すると治療に時間がかかる
  • 早期に症状に気づき、適切な治療を受けることが大切
  • 治療法には、塗り薬や飲み薬、光線療法、冷却療法、ステロイド局所注射などがある
  • 重症の場合は局所免疫療法の対象となるが、健康保険は適応されない
  • 円形脱毛症に気づいたら専門医の診察を受けることが重要