マスクの着用で増加中。繰り返す顎ニキビの原因・治療法は?

執筆:吉村 佑奈(保健師・看護師)

毎日マスクをつけるようになったら顎ニキビが増えた、という人は多いでしょう。たしかに日常的なマスクの着用も一因ですが、他にも顎ニキビは様々なきっかけで発生します。そこで、顎ニキビの原因や対策、治療法について解説します。

大人になると増える顎ニキビ

誰もが一度は経験したことのあるニキビですが、専門的には「尋常性ざ瘡(じんじょうせいざそう)」と呼ばれる皮膚疾患です。古い角層や汚れ、過剰な皮脂などが毛穴に詰まり、アクネ菌などが増殖して炎症を起こすことで発生します。中でも顎やフェイスラインなどにできたものは、一般的に「顎ニキビ」と呼ばれています。
顎ニキビの特徴は、大人になってからできる人が増える点です。いわゆる「大人ニキビ」のことで、成長ホルモンの影響でできる思春期のニキビとは違って、間違ったスキンケアや生活習慣など、様々なことが原因になります。
そこで、顎ニキビができる原因をあげて詳しくみていきましょう。

顎ニキビの原因(1) 間違ったスキンケア

顎は汗を出す汗腺が少ない一方で、皮脂を出す皮脂腺が多い部位です。汗には肌の潤いを保つ役割があるので、汗の少ない顎は乾燥しやすいのが特徴です。乾燥した肌は、皮脂を分泌して肌の潤いを守ろうとしますが、皮脂腺の多い顎は皮脂の過剰分泌が起こりやすい場所。過剰に出た皮脂が毛穴に詰まると、ニキビが発生しやすくなります。
そうならないためには、水分を補うための保湿ケアをしっかり行うことが重要です。ところが、顎ニキビが頻繁にできていると、どうしても皮脂を取り除くためのケアに走りがちです。たとえば、無意識のうちに力を入れてクレンジングをしてしまったり、1日に何度も洗顔をしたりしていませんか?こうした誤ったケアは、肌の乾燥を招き、皮脂のさらなる過剰分泌やニキビなどの原因になります。

顎ニキビの原因(2)ホルモンバランスの変化

月経前になると顎ニキビができてしまう、という人は多いでしょう。これは「黄体ホルモン」の働きによるものと考えられます。黄体ホルモンは月経前になると増える女性ホルモンで、皮脂の分泌を促す働きがあります。

顎ニキビの原因(3)ストレスや疲れ

顎やフェイスラインは「アンドロゲン」という男性ホルモンの影響を受けやすい場所です。アンドロゲンは女性でも分泌されるホルモンで、皮脂量を増やしたり、角化異常(異常に角質が増えてしまう状態)を起こしたりする働きがあります。ですから、アンドロゲンが増えると、顎の皮脂量が増えて、ニキビができやすくなるのです。ストレスや疲れがたまると自律神経のバランスが乱れて、アンドロゲンの分泌が促されるので要注意です。
また、ストレスや疲れの蓄積は、ターンオーバー(新陳代謝)のサイクルを乱します。すると、古くなった角質が肌に残り毛穴が詰まったり、潤いを保つ機能が低下したりするので、ニキビが発生しやすくなります。

顎ニキビの原因(4)マスクの着用

マスクが触れる顎は、摩擦などの刺激が加わりやすい場所です。摩擦によってバリア機能が壊れると、肌の水分が逃げて乾燥しやすくなります。すると、皮脂が過剰に分泌されて、毛穴の詰まりやニキビが生じやすくなります。
また、マスクの中は湿度が高く、アクネ菌が増殖しやすい環境です。アクネ菌は「ニキビ菌」ともいわれていて、増殖するとニキビが発生しやすくなります。

このように、顎ニキビは様々な要因が重なって発生します。

顎ニキビを予防しよう

ここでは基本のニキビ予防策をご紹介します。

〇毎日のスキンケアを見直す

特に、大人ニキビは乾燥が原因になっているケースが少なくありません。先ほど挙げたような皮脂を取り過ぎるケアはやめて、保湿ケアに力を入れてみましょう。「べたつくのが苦手で保湿ケアはしたくない」という人がいるかもしれませんが、最近は様々なスキンケア製品が販売されていますから、自分に合ったものを探してみるとよいでしょう。また、季節によって肌の状態も変わるので、たとえば、夏は皮脂コントロールのできる化粧水や美容液を取り入れる、秋や冬は高保湿の乳液やクリームを追加する、といったように、季節に応じてお手入れを変えるのも方法のひとつです。
なお、顎ニキビが気になるからと手で触ったり潰したりしていると、炎症が悪化するだけでなく、ニキビ痕も残りやすくなるので、注意しましょう。

〇紫外線対策も重要

紫外線は皮脂の酸化や炎症、角化異常を引き起こすことがあり、顎ニキビと無関係ではありません。日焼け止めの刺激が気になるときは、敏感肌用のものを使ったり、日傘や帽子なども上手に活用したりして、紫外線対策を徹底しましょう。

〇生活習慣の見直しは基本のキ

特に疲れやストレスは顎ニキビの大敵です。睡眠の時間をとったり、ストレスを発散したりして、身体の内側からニキビ予防に努めましょう。また、バランスのとれた食事も、美肌作りには不可欠です。
なお、月経前にニキビが悪化する人は、月経周期を記録したり、月経前にはいつも以上に休息の時間を確保したりするなど、身体のリズムに合わせた生活を心がけてみましょう。

〇マスクを衛生的に保つ

不衛生なマスクは、ニキビ発生の原因になります。繰り返し使えるマスクは毎日洗う、使い捨てマスクは毎日交換するなどして、マスクを衛生的に保ちましょう。

なお、できてしまった顎ニキビに対しての最も有効なアプローチは、やはり医療機関を受診することです。ニキビは比較的ありふれた皮膚疾患ということもあり、自分なりのケアで様子を見る人が多いのですが、放っておくと悪化したり、痕が残ったりすることがあります。特に、赤みが強く出たり、膿を持った状態(赤ニキビ)は要注意。キレイに治らずに痕が残る可能性が高くなるので、早めの受診をおすすめします。また、何度も繰り返すしつこい顎ニキビも、皮膚科で診てもらいましょう。

顎ニキビの治療法

皮膚科には様々な治療法があります。一般的にはまず、抗生物質やビタミンB群などの内服薬や、外用薬を用いた薬物療法が行われます。また、ニキビの状態によっては、「面皰圧出法(めんぽうあっしゅつほう)」といって、専用の機器でニキビ内の皮脂を取り除く治療が行われます。これらは一般的なニキビの治療法で保険が適用されますが、ニキビの炎症が強く、痕が残っているようなケースや、ニキビを繰り返しているケースでは、患者様の希望に応じて、保険適用外の治療を受けることもできます。
たとえば、次のようなものがあります。

・ディープエレクトロクレンジング

専用の機器を使って微弱な電流を流し、肌表面や毛穴の汚れを取り除く治療法です。毛穴の汚れや詰まりがしっかり取れるので、ニキビや肌荒れの予防につながります。

・ピーリング治療(ケミカルピーリング・コラーゲンピール)

専用の薬剤を肌表面に塗布し古い角質をはがす治療法で、肌の新陳代謝(ターンオーバー)のサイクルを正常化することができます。使用する薬剤によって期待できる効果に違いがあり、たとえば、サリチル酸を用いたケミカルピーリングはニキビやニキビ痕、毛穴の詰まりなどに効果を発揮します。また、ニキビ痕や毛穴の開き、たるみ、小じわなどに対しては、「PRX-T33」という薬剤を用いたコラーゲンピールも有効です。

・ダーマペン4

微細な針のついたペン型の機器を用いて、肌表面にごく小さな穴を開ける治療法です。傷が修復される際にコラーゲンなどが生成されるため、ツヤやハリがアップしたり、ターンオーバーが促されたりします。また、その過程でニキビ痕や毛穴の開きの改善が期待できます。また、ダーマペン専用のピーリング剤を用いた治療(ウーバーピール)と併用して行うと、よりいっそうの効果を期待できます。

・CO2フラクショナルレーザー

レーザー機器を用いて肌にごく小さな穴をたくさん開け、肌の新陳代謝やコラーゲンの生成を促す治療法で、ニキビ痕の改善にも効果が期待できます。

その他にも、イオン導入やLEDヒーライトなど、様々な治療法があります。効果の高い反面、治療後に赤みなどのダウンタイムが生じたりする治療法もあるので、それぞれのメリットやデメリットを理解した上で選択しましょう。
なお、月経前にのみ顎ニキビが悪化するようなケースでは、婦人科での治療が有効な場合もあります。症状の出るタイミングや、他の症状(例:月経前のイライラ)なども踏まえて、受診先を選ぶとよいでしょう。

顎ニキビを悪化させたくない人は皮膚科を受診しよう

顎ニキビがなかなか治らずに困っている人は、ぜひ皮膚科を受診してみてください。お伝えしたように、皮膚科には実に様々な治療法があります。専門医に肌の状態を診てもらいながら、あなたにぴったりの治療法を探してみてください。

まとめ

  • ニキビは「尋常性ざ瘡(じんじょうせいざそう)」と呼ばれる皮膚疾患
  • 顎は乾燥しやすく、皮脂の過剰分泌が起こりやすいので、保湿ケアが十分ではなかったり、皮脂を取り過ぎたりしていると、ニキビが発生、悪化することがある
  • 月経前になると女性ホルモンのバランスが変化することも、顎ニキビの発生に関係している
  • ストレスや疲れがたまるとアンドロゲンという男性ホルモンが分泌され、ターンオーバーが乱れたりして、顎ニキビができやすくなる