医療コラム
ヒルドイドの正しい使い方とは
保湿剤として皮膚科で処方される「ヒルドイド(ヘパリン類似物質)」。乾燥肌に有効なヒルドイドですが、正しい使い方をしなければ十分な効果を得られません。そこで、ヒルドイドの正しい使い方について詳しく解説します。
ヒルドイドとは
「ヒルドイド」(製造・販売:マルホ株式会社)は豚軟骨由来のヘパリン類似物質を0.3%含有した処方薬です。ヒルドイドの主成分であるヘパリン類似物質は、血液をサラサラにする作用のある「ヘパリン」に似た化学構造をもっていて、血行を促進したり炎症を抑えたりする効果が期待できます。また吸水性や保水性に優れていたり、ヒルドイドで皮膚を覆うことによって水分が逃げにくくなったりすることから、保湿剤として用いられています。さらに、動物実験では肌のバリア機能を修復する作用も確認されています。
ヘパリン類似物質を含む医薬品は市販薬もあり、ドラッグストアなどでも購入できますが、ヒルドイドは医療機関で処方される薬です。血行促進や保湿の目的で、特に次のような症状の治療に用いられています。
- 血栓性静脈炎(痔核を含む)
- 血行障害に基づく疼痛や炎症性疾患(注射後の痛みや皮膚が硬くなるなど)
- 凍瘡(しもやけ)
- 肥厚性瘢痕やケロイドの治療と予防
- 進行性指掌角皮症(手湿疹)
- 皮脂欠乏症(皮脂の減少により角層の水分が減って皮膚が乾燥するもの)
- 外傷(打撲、捻挫、挫傷)後の腫れ、血腫(血の塊)、腱鞘炎、筋肉痛、関節炎
上記に当てはまらない場合でも、ヒルドイドが皮膚の乾燥に効果を発揮することから、保湿剤として処方されています。
ヒルドイドの副作用
ヒルドイドは安全性が高く、乳幼児にも使用できます。ただし、副作用として皮膚炎や痒み、赤み、発疹などの報告があります。発生する確率はいずれの症状も0.1~5%未満と低く安全性は非常に高いのですが、ヒルドイドはあくまでも薬のため、医師の指示に従って正しく使うことが重要です。また「乾燥肌に効く保湿剤が保険適用で安く手に入るから」と、美容目的での処方を希望する人がいますが、お伝えしたようにヒルドイドは皮膚疾患の治療に用いられるもので、わずかとはいえ副作用のリスクもあります。美容目的での使用は絶対にやめましょう。
ヒルドイドの種類
ヒルドイドにはクリーム、ソフト軟膏、ローション、フォームの4種類があります。それぞれの特徴を解説します。
〇ヒルドイドクリーム0.3%
サラッとしたテクスチャーで、伸びが良く塗りやすいクリームです。水の中に油を閉じ込めた「水中油型」のため使用感はさっぱりとしています。
〇ヒルドイドソフト軟膏0.3%
油分の中に水分を閉じ込めた「油中水型」のクリームで、ヒルドイドクリームよりもしっとりとした使用感です。伸びの良さと保水力に優れています。
〇ヒルドイドローション0.3%
乳液タイプのヒルドイドで非常に塗りやすい点が特徴です。ヒルドイドクリームと同じ水中油型で、使用感はさっぱりとしています。伸びが良いため、塗る範囲が広い場合にはローションタイプが使いやすいでしょう。顔や頭皮にも使用できます。
〇ヒルドイドフォーム0.3%
2018年2月に薬事承認された最も新しいタイプです。泡で出てくるタイプのヒルドイドで、ローションタイプよりもさらに伸びが良く広範囲に塗りやすいでしょう。油分が含まれていないためべたつかず、さっぱりとした使用感です。ヒルドイド特有の匂いが少ないことから、乳幼児にも使いやすいでしょう。
このようにヒルドイドには複数のタイプがあります。汗をかく夏場はサラッとしたローションやフォームタイプを使い、冬場はしっとりとした軟膏タイプを使うといったように、季節や好みに合わせて使い分けることもできるでしょう。「ヒルドイドを使っているけど使用感があまり好きではない」という人は医師に相談してみてください。
ヒルドイドの正しい使い方
ヒルドイドの効果を十分に得るために、正しい使用方法をご説明します。
〇1日に塗布する回数
ヒルドイドはどの製品も1日数回の塗布が望ましいとされていますが、必要な回数は、症状や使用目的によって異なります。処方してもらう際に医師に確認しましょう。
〇1回あたりの使用量
塗り薬の使用量の目安は1FTU(Finger Tip Unit)を基準とします。1FTUとは約0.5gで、大人の手のひら約2枚分の面積に塗ることができる量です。成人の場合、部位ごとに必要な量は以下です。
- 顔や首:2.5FTU
- 胸や腹:7FTU
- 背中とお尻:7FTU
- 片腕:3 FTU
- 片脚(太ももの付け根~足首):6FTU
- 片足(足首~つま先):2FTU
また、1FTUの測り方は、次のようにヒルドイドの種類によって異なります。
- ヒルドイドクリーム・ソフト軟膏のチューブタイプ:大人の人差し指の先端から第一関節まで出した量
- ヒルドイドクリーム・ソフト軟膏の瓶タイプ:人差し指の先端から第一関節の1/2までの長さをすくった量
- ヒルドイドローション:1円玉大
- ヒルドイドフォーム:キャップの半量(キャップ1杯が2FTU)
〇他の塗り薬と併用する場合
ヒルドイドと併用が禁忌とされている塗り薬はないため、複数種類の塗り薬を処方されることがあるかもしれません。同時に塗布する場合、薬の種類や治療方針によって塗る順番が異なる可能性があるため、処方医に確認することをおすすめします。
ヒルドイドを使用する際の注意点
ヒルドイドの使用にあたっては、次のように注意すべき点があります。
〇清潔な使用・保管を心がける
ヒルドイドを使用する前には手を洗いましょう。また汗をかいていたり患部に汚れなどが付着していたりする場合は、シャワーで流し清潔にしてから塗布します。
〇適正量を守る
ヒルドイドに限ったことではありませんが、適正量の使用を心がけましょう。目安としては塗布後の肌がテカッと光る程度で、ティッシュペーパーなどがくっつくくらいの量が必要です。
〇妊娠中の使用は医師に相談する
ヒルドイドは安全性が高いものの、妊娠中は治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用できます。使用については必ず医師に相談しましょう。
〇持病がある人や他の薬を服用している人は必ず医師に申し出る
持病や服用している薬によっては、ヒルドイドを使用できないことがあります。特にヘパリン類似物質には血流を改善する作用があるため、血が出やすい疾患を持っている人(出血性血液疾患)や血液をサラサラにする薬(血液凝固抑制剤)を飲んでいる人などは使用できません。持病がある人や服用中の薬がある人は、必ず医師に申し出るようにしましょう。
また、潰瘍やただれなど、皮膚に他の症状がある場合は必ず医師へ相談してから使用してください。
〇副作用が出たら使用を中止して医師に相談する
ヒルドイドを使用した後に、痒みや赤み、発疹が出た場合にはただちに使用を中止し、医師へ相談してください。
〇火の近く、高温の場所、直射日光が当たる場所での使用・保管を避ける
ヒルドイドフォームは高圧ガス(LPG)を使用した可燃性の製品です。火の近く及び火を使用している部屋での使用や保管はやめましょう。また、高温の場所では破裂の危険があります。直射日光の当たる場所や、室温が40℃以上となる場所での使用や保管は避けましょう。破棄する際も必ず使い切っているかどうか、確認してください。
〇使用後は必ずキャップを閉める
水分の蒸発を防ぐために、使用後に必ずキャップを閉めるようにしましょう。特にクリームタイプのヒルドイドはキャップの閉め忘れに注意してください。
以上の注意点を守って正しく使いましょう。
まとめ
- ヒルドイドは、ヘパリン類似物質を0.3%含有した薬剤で皮脂欠乏による乾燥などに効果が期待できる
- ヒルドイドにはクリーム、ソフト軟膏、ローション、フォームの4種類がある
- さっぱりとした使用感を求めるならフォームやローションタイプ、しっとりとした使用感が好きならばソフト軟膏の使用が良い
- ヒルドイドは適正量使用することが必須
- 妊娠中の方や出血性の持病がある人、血液凝固抑制剤を服用中の人は、使用できないことがあるため、医師に申し出ること