ボツリヌス注射はしわやエラ以外にも? ふくらはぎの痩身や、多汗症、肩こりに

執筆:井上 愛子(保健師・助産師・看護師)

美容治療の中でもメジャーな「ボツリヌス注射」をご存じですか?ボツリヌス注射は、エラのハリを目立たなくする他、ダイエットやしわケア痩身、多汗症、肩こりなどにも効果的な万能製剤です。ここではボツリヌス注射の効果や施術の実際についてお伝えします。

ボツリヌス注射とは

ボツリヌス注射は、ボツリヌス毒素から抽出された「ボツリヌス」と呼ばれる、たんぱく質の成分を使用する施術です。ボツリヌス毒素という名前を聞くと体に害のある毒のように思えますが、薬剤として使われるものは毒性が取り除かれているため、安全性の高いものです。

ボツリヌスには、神経末端からの情報伝達物質、アセチルコリンの放出を抑える働きがあります。そのためボツリヌス注射を美容治療の中で用いると、筋肉の動きを抑制してしわを目立たなくしたり、発汗を低下させることができるのです。

ボツリヌスの製剤

ボツリヌス製剤にもいくつかの種類がありますが、よく使用される代表的な製剤は次の2種類です。

・アラガン・ジャパン社製「ボトックスビスタ®」
ボツリヌス製剤を最初に製品化した老舗メーカーであるアラガン社の製品。何十年も臨床実験が繰り返されており、その安全性は高く評価されています。現在、世界の80カ国以上で使用されており、日本国内でも2009年1月に厚生労働省に認可されました。国内で唯一承認を取得している製剤です。

・韓国ヒューゲル社製「ボツラックス®」
韓国食品医薬品安全庁(KFDA)に医薬承認されている製剤で、製品純度が高いのが特徴です。ボトックスビスタ®と同等の効果を期待できますが、ジェネリック薬品に相当するため、施術費用を抑えられる、というメリットがあります。

ボツリヌス注射の効果

ボツリヌス注射は、注射する濃度や深さ、量などを調整することでさまざまな効果を得られます。ボツリヌス注射の効果が期待できる代表的な部位を、順にみていきましょう。

・表情じわ
眉を動かすとできるおでこや眉間のしわ、笑うとできるこめかみのしわなどは、表情を作る筋肉の動きに合わせて皮膚が伸縮することによってできるもので、同じ動作を繰り返すことで目立つ深いしわとなります。気になる部分の表情筋に注射すると、動きが緩和され、しわが目立ちにくくなります。

・エラのはり
エラの部分にある筋肉(咬筋)は、習慣的に奥歯を強く噛み締めたり、歯ぎしりなどをしていると発達してしまいます。咬筋にボツリヌス注射を打つと、筋肉の動きが緩和されて痩せるため、1ヶ月程度でエラがスッキリとし、小顔に見せることができます。

・ワキ汗、多汗症
ボツリヌス注射には汗腺の働きを抑える効果があるため、手のひらや腋窩など汗が気になる汗腺に直接注射すると汗の分泌量を減らすことが可能です。

・ふくらはぎの痩身
ふくらはぎの筋肉が発達し太くなっている場合、一般的なダイエットではなかなか痩せることができません。発達している筋肉にボツリヌス注射を打つと、筋肉の動きが緩和されて痩せ、ほっそりとした美脚を目指すことができます。ただし、ふくらはぎが脂肪によって太っている場合は、適応となりません。

・肩こり
肩こりは、長時間のデスクワークや運動不足などで筋肉の緊張状態が続き、血流が滞ると起こりやすくなります。肩の筋肉にボツリヌス注射を打つと、筋肉が弛緩し症状が和らぎ、肩こり解消へ繋がります。

ボツリヌス注射、施術の流れ

それでは、実際の施術はどのような流れで行われるのでしょうか。

まず、スタッフのカウンセリングや医師の問診で施術内容や料金の説明を受け、施術部位のマーキングが行われます。不安な点があれば、その際にきちんと確認しましょう。施術前の処置として、表情じわやエラの場合は、麻酔のテープを貼ったり、多汗症の場合は麻酔クリームを塗るなどして、効き目がでるまで30分ほど待ちます。ふくらはぎや肩の場合は麻酔はせず、クーリングしながらの施術となります。その後、ベットでターゲットの部位に注射を打ちます。止血を確認し、マーキングを消して施術は終了となります。

所要時間の目安は、表情じわやエラ、多汗症の場合、麻酔30分に加えて注射に10〜30分程度。ふくらはぎは注射に30分、肩こりは注射に20分程度となります。

顔への施術の場合、ファンデーションやフェイスパウダーなど、注射を打った部位に触れるようなメイクは控えましょう。ただしポイントメイクは当日から可能です。

施術部位にもよりますが、治療による変化は1、2週間〜1ヶ月程度で出始め、3〜6ヶ月程度持続します。効果を長くキープしたい場合は、定期的に施術を受けることが推奨されます。

ボツリヌス注射の注意点

ボツリヌス注射は、多くの効果を期待できる万能薬とも言われますが、あらかじめ注意しておきたい点もあります。

たとえば、ボツリヌス注射の施術後、「思ったより変化がなかった」「自然な表情が作りづらい」といった声が聞かれることも少なからずあります。これらの原因は、薬剤の量や入れる場所が適切でなかった、ということがほとんど。ボツリヌス注射に伴う副作用として、筋肉の動きづらさが生じる、などのリスクもゼロではありません。多くは時間の経過とともに改善しますが、安心して施術を受けるためには、ボツリヌス注射に精通した医師のいる病院を選ぶことが重要です。また、妊娠・授乳中の方や神経筋障害のある方、特定の薬を服用している方などは、施術を受けられないケースもあります。注意事項や副作用も含めて、不明点は必ず確認しましょう。

ボツリヌス注射は、その効果をうまく活かせば、さまざまな悩みを解決してくれるものです。気になる場合は、信頼できる医療機関を見つけ、相談してみてはいかがでしょうか。

まとめ

  • ボツリヌス注射は、ボツリヌス毒素から抽出された「ボツリヌス」と呼ばれる成分を使用する施術
  • 薬剤として使われるボツリヌスは毒性が取り除かれているため、安全性が高い
  • ボツリヌスには、神経末端からの情報伝達物質の放出を抑える働きがある
  • ボツリヌス注射は表情じわを目立ちにくくする他、エラのハリやワキ汗、多汗症の改善、ふくらはぎの痩身、肩こり改善など、さまざまな効果を期待できる
  • ボツリヌス注射の施術は、部位と必要性に応じて麻酔も使用される
  • 治療による変化は、およそ1、2週間〜1ヶ月程度で出始め、3〜6ヶ月程度持続する
  • ボツリヌス注射の効果をキープしたい場合は、定期的に施術を受けることが必要
  • ボツリヌス注射の施術後は、筋肉の動きづらさが生じるといった副作用が起こる可能性もゼロではない
  • 安心して施術を受けるためには、信頼できる医療機関を選び、不安点を予め確認することが大切