花粉症ボツリヌス療法の効果とは。保険は適用される?メリットとデメリットは?徹底解説。

執筆:吉村 佑奈(保健師・看護師)

近年、増加している国内の花粉症患者。特にスギやヒノキ、ブタクサやイネなどの花粉の飛散量が増加する春や秋になると、くしゃみや鼻水、目の痒みといった症状に悩まされる人が多くなります。代表的な治療法として内服薬による薬物療法がありますが、副作用が気になって不快な症状を我慢している人や、イマイチ効果を感じられないという人がいるかもしれません。そんな人にこそ注目してほしい花粉症の治療法、それが「花粉症ボツリヌス療法」です。どんな治療法なのか、詳しく解説します。

「ボツリヌス療法」とは

「ボツリヌス療法」は、ボツリヌス菌が作り出す「ボツリヌストキシン」を有効成分とする薬剤を用いた治療法です。ボツリヌストキシンはタンパク質の一種で、筋肉を動かすために脳から分泌される「アセチルコリン」を抑える作用があります。医療の現場では、筋肉の過度な緊張を抑える目的で治療に使われています。
また、美容医療の分野でもボツリヌス療法はよく取り入れられています。しわを目立たなくする治療法として知られていますが、その他にもエラ張りの改善、脚痩せ、多汗症の治療、肩こりの緩和など、様々な目的で行われています。
では、こうした目的で使われるボツリヌス療法がなぜ花粉症にも有効なのでしょうか。その理由を解説します。

「ボツリヌス療法」が花粉症に効く理由

いわゆる花粉症は、スギなどの花粉が体内に侵入した際にそれを排除しようとして起こるアレルギー反応です。本来、花粉自体は無害なものですが、身体の免疫機構の過剰反応によって有害物質と認知されてしまうと、それに対抗するために体内にIgE抗体が作られ蓄積されていきます。そして抗体が溜まると、アレルゲンが体内に侵入した際に、肥満細胞からいくつかの物質が出されるようになります。そのうちの一つがアセチルコリンです。アセチルコリンが出されると、自律神経の副交感神経が過剰に働いて、アレルギー症状が現れるようになりますが、ここで症状緩和に役立つのが、ボツリヌス療法です。お伝えしたように、ボツリヌストキシン製剤にはアセチルコリンを抑える作用があります。ボツリヌストキシン製剤を鼻粘膜の副交感神経に作用させると、鼻水や鼻づまり、目の痒みといった花粉症の症状が緩和されるようになります。

花粉症ボツリヌス療法のメリットとデメリット

花粉症の治療法としては、内服薬や点鼻薬、注射による治療のほか、アレルゲン免疫療法(舌下免疫療法など)や手術といった選択肢があります。中でも内服薬は薬局などで手に入ることもあって、選ぶ人が一番多い対処法かもしれません。確かに手軽な方法ですが、内服薬は眠気や倦怠感といった副作用のリスクが伴います。実際に、副作用が気になるからと、薬を飲まずに症状を我慢している人も少なくありません。さらに、1日に複数回の内服が必要な飲み薬の場合は、飲み忘れのリスクもあります。
このように治療法にはメリットとデメリットがありますが、花粉症ボツリヌス療法の場合はどうでしょうか。以下にメリットとデメリットをまとめていきます。

メリット

〇副作用がほとんどない

花粉症ボツリヌス療法は副作用が出にくい治療法です。飲み薬で起こりがちな眠気や倦怠感といった症状が現れることもないため、日常生活に支障をきたすことなく、花粉症の症状を緩和させることができます。

〇治療時の強い痛みがない

ボツリヌス療法というと注射のイメージが強いですが、花粉症治療の場合は、鼻の孔に薬剤を滴下する方法で行われます。違和感が生じる場合はありますが、強い痛みなどを感じることは稀です(粘膜の炎症が強い場合、痛みが生じる可能性はあります)。また、治療中に薬剤が喉の奥に流れてくる感覚があることがありますが、嗅覚や味覚に問題をきたすことはありません。

〇即効性があり、効果の持続期間が比較的長い

個人差はありますが、治療直後から効果を感じる人もいます。また、一度の治療で2週間~3週間程度効果が続くため、花粉症のシーズン前もしくはシーズン中に数回通院するだけでアレルギーの症状を気にせずに過ごすことができます。1回あたりの治療時間は15分程度で、通院の負担もそれほど大きくありません。

デメリット

〇効果を感じられない人がいる

花粉症ボツリヌス療法に限ったことではありませんが、効果の有無や持続期間には個人差があります。体質によってはあまり効果を感じられない人もいますし、効果を感じられても数日で消失してしまう人もいます。合わない場合は他の治療法も含めて、どんな選択肢があるのか、医師に相談しましょう。

〇治療を受けられない人がいる

妊娠中や妊娠の予定がある人、授乳中の人、神経筋障害の人、全身性の筋肉の病気を患っている人、ボツリヌストキシン製剤に対してアレルギー症状が出たことのある人などは治療を受けられません。またクリニックによっては「18歳以上」など、年齢制限をしているところもあるため確認が必要です。

〇保険が適用されない

花粉症ボツリヌス療法は保険適用外の治療法です。ボツリヌストキシン製剤の種類によっても料金が異なりますが、目安として1回あたり数千円~20,000円かかることが多いようです。クリニックによって料金が異なるため、受診前に確認しておくことをおすすめします。

このように、花粉症ボツリヌス療法は人によってはつらい花粉症の症状が大きく改善される可能性のある治療法です。もちろん効果には個人差がありますが、これまでつらい花粉症に悩まされてきた人にとっては、受けてみる価値のある治療法かもしれません。ただし、今回ご紹介したようなデメリットもあるため、それを踏まえた上で検討してみてください。迷っている人は、花粉症ボツリヌス療法を受けられるクリニックにまずは相談してみましょう。

まとめ

  • ボツリヌス療法は、アセチルコリンの分泌を抑える作用をもつボツリヌストキシンを有効成分とする薬剤を用いる治療法で、医療や美容医療の現場で使われている
  • 花粉症ボツリヌス療法は、アセチルコリンの分泌を抑制することで、アレルギー症状を緩和させるもの
  • 花粉症ボツリヌス療法のメリットとして、 副作用が少ないこと、治療時の痛みが少ないこと、即効性があり、治療効果の持続期間が長いことなどが挙げられる
  • 花粉症ボツリヌス療法のデメリットとして、効果には個人差があること、治療を受けられない人がいること、保険適用外であることが挙げられる
  • 花粉症ボツリヌス療法は一部の患者にとって有効な選択肢であるが、デメリットも考慮した上で医師と相談して治療法を決めることが重要