花粉症との合併でアトピー性皮膚炎が悪化したら?皮膚科でできる対処法について解説。

執筆:井上 愛子(保健師・助産師・看護師)

皮膚にかゆみや湿疹の症状が出るアトピー性皮膚炎は、花粉症との合併で悪化することがあります。特に花粉の影響が出やすい季節、アトピー性皮膚炎の人はどのような対処をすれば良いのか、予防法や皮膚科で受けられる治療について解説します。

アトピー性皮膚炎とは

はじめにアトピー性皮膚炎とは、かゆみや湿疹の症状が、良くなったり悪くなったりする状態を繰り返す皮膚の病気です。アトピー性皮膚炎になりやすいのは、自分自身や家族が喘息やアレルギー性鼻炎といったアレルギー性の病気を持っている人や、「IgE抗体」と呼ばれるアレルギー症状の原因物質を作りやすい素質のある人、と考えられています。そして、このような体質を持つ人が、食物やダニ、花粉といったアレルギーを引き起こす原因物質に触れることで、身体に備わっている免疫システムが過剰に反応して炎症が起こります。
ただし、アトピー性皮膚炎を発症する要因はこれだけではありません。最近の研究では、アレルギー体質だけでなく、皮膚が乾燥し、バリア機能が低下することも炎症が起こりやすくなる要因であることが明らかになってきています。皮膚のバリア機能が低下するのは、乾燥しやすい、汗をかきやすい、といったアレルギーとは異なる体質的な要因に加えて、季節や気温、湿度など環境面の要素も大きく関わります。
つまり、アトピー性皮膚炎は、生まれ持ったアレルギー体質に加えて、皮膚のバリア機能が低下しやすい体質や環境の要因が関わって起こる症状と言えるでしょう。

アトピー性皮膚炎との付き合い方

様々な要因が関わって発症するアトピー性皮膚炎を完全に治せる治療法は、現時点では見つかっていません。ですから、アトピー性皮膚炎と付き合う上では、つらい症状がコントロールされている状態をできるだけ長くキープする、ということが目標になります。
そのためには、症状に合った適切な薬物治療を受けることに加えて、スキンケアの見直しが必要不可欠です。皮膚のバリア機能を高めるため、皮膚を清潔に保ち、保湿を徹底することも治療の一つとなります。
そして、もう一つ重要なのが、症状を悪化させる要因を除去することです。衣類との摩擦や身体に合わないスキンケア用品、ダニやほこり、ペットの毛などがアトピー性皮膚炎を悪化させる要因となっていることが少なくありません。このような日常生活の中にある悪化要因をできる限り取り除くことも、アトピー性皮膚炎とうまく付き合う鍵となります。

アトピー性皮膚炎に花粉症が合併すると・・・

アトピー性皮膚炎の症状を悪化させる要因の中で特に注意したいのが、「花粉症」です。スギやヒノキの花粉が多く飛散する2〜4月にかけて、またブタクサ、ヨモギ花粉などの影響が出やすい10〜12月にアトピー性皮膚炎の症状が強くなる場合は、花粉症の合併が大きな要因になっていると考えられます。
花粉に触れる顔や首などに、かゆみや湿疹が出るこの症状は「花粉皮膚炎」とも呼ばれており、もともとアトピー性皮膚炎の既往がある人が発症する場合がほとんどと考えられています。鼻水や目のかゆみといった一般的な花粉症の症状がなくても、皮膚の症状だけが出ることもあるため注意が必要で、アトピー性皮膚炎患者の約30%は、スギ花粉が原因で皮膚の症状が悪化するという報告もあります。
さらに、花粉症で鼻水の症状が出ると頻繁に鼻をかむため、摩擦によってかゆみや赤みが出やすくなります。また、目のかゆみが強い場合も、ついつい擦ったり触れてしまい炎症が悪化する恐れがあるため、花粉症の時季はアトピー性皮膚炎が悪化しやすいタイミングと言えます。

対策のポイント

花粉症の合併でアトピー性皮膚炎を悪化させないためには、次のような対策を徹底することが重要です。

〇花粉をできるだけ浴びない

まずは症状悪化を招く花粉に触れる機会をできる限り減らすことが重要です。外出の際はマスクやメガネ、ゴーグル、帽子、手袋などを着用し、首にはスカーフを巻くなどして、肌の露出を減らしましょう。また、帰宅時には玄関の前で花粉を入念に払い落とし、洗濯物は部屋干しにするなど、室内に花粉を持ち込まないよう注意しましょう。

〇スキンケアの徹底

保湿ケアを入念に行うとともに、加湿器なども利用して空気の乾燥を予防しましょう。また、洗顔時や鼻をかむ際には、肌を強く擦らないよう気をつけることも大切です。肌への刺激を最大限に減らしましょう。

〇食事や生活リズムの見直し

身体の免疫機能を高めるには、バランスの良い食事や十分な睡眠時間の確保も欠かせません。特に胃腸や口、鼻の粘膜を正常に保つビタミンAや、免疫細胞を活性化する働きのあるビタミンB、Eなどを意識して摂ると良いでしょう。睡眠に加えて、ストレスを溜めないようにすることも免疫力アップには重要です。

花粉症が原因でアトピー性皮膚炎が悪化した時の治療法

アトピー性皮膚炎の症状が花粉症との合併で悪化した場合は、早めに皮膚科を受診することも、重症化を防ぐ鍵となります。
まず、花粉に対するアレルギーの治療としては、抗アレルギー薬の内服や、点鼻薬、点眼薬の使用が一般的です。鼻をかんだり、目を擦ったりすることも皮膚症状が悪化する要因となるため、予防策の徹底に加えて適切な薬を内服し、花粉症の症状を抑えていきます。
また皮膚の症状に対しては、アトピー性皮膚炎の治療に準じて保湿外用薬やステロイド外用薬、免疫抑制外用薬を使用します。花粉の時季以外に処方された薬は、悪化している症状の対処として適切ではない場合もあります。症状が比較的軽ければ、抗アレルギー薬の内服や保湿で改善を期待できますが、かゆみが強かったり、湿疹がなかなか消えなかったりする場合は、ステロイドの強さを調節し炎症を抑えていくことが、症状をコントロールする近道です。
その他、皮膚科では保湿剤も様々な種類のものがあるため、自分に合うものを相談することが可能です。花粉症の合併でアトピー性皮膚炎を悪化させないために、花粉の時季は早期から予防策を徹底し、症状が強い場合は早めに医療機関を受診しましょう。

まとめ

  • アトピー性皮膚炎は、かゆみや湿疹の症状が良くなったり悪くなったりする状態を繰り返す皮膚の病気である
  • アレルギー体質を持つ人が原因物質に触れると、免疫システムが過剰反応し炎症が起こる
  • 乾燥や汗などによって皮膚のバリア機能が低下していると、症状が出やすくなる
  • アトピー性皮膚炎は、症状がコントロールされている状態をできるだけ長くキープすることが治療の目標となる
  • 花粉はアトピー性皮膚炎を招く原因物質の一つであり、花粉症を合併すると、顔や首などにかゆみや湿疹が出る「花粉皮膚炎」の症状が出やすい
  • 花粉症の合併でアトピー性皮膚炎を悪化させないためには、花粉に触れる機会を減らすことが重要で、保湿ケアの徹底、食事・生活リズムの見直しも症状悪化の予防につながる
  • 病院ではまず、花粉に対するアレルギーの治療としては、抗アレルギー薬の内服や、点鼻薬、点眼薬の使用を検討する
  • 皮膚症状に対しては、アトピー性皮膚炎の治療に準じて適切な外用薬を使うことが重要