医療コラム
赤ちゃんの赤あざ「いちご状血管腫」ができる原因は?早期治療の必要性や治療法は?
生まれたばかりの赤ちゃんの顔に赤い痣(あざ)を発見。「何が原因?」「悪化したり拡がったりする可能性はある?」など、ご両親は居ても立ってもいられない気持ちになるでしょう。乳児期にできる赤あざの代表的なものが「いちご状血管腫」です。「いちご状血管腫」はそれ自体が悪さをするものではありませんが、痕が残ることもあります。痕を残さないためには早期治療がポイントです。そこで今回は「いちご状血管腫」の原因や治療法、早期治療の可能性について解説します。
いちご状血管腫とはどんなもの? 原因は?
いちご状血管腫は、血管の奇形が原因でできる良性腫瘍(血管腫)の一つです。生後1歳くらいまでに起こる皮膚疾患で、正式には「乳児血管腫」と言います。「いちご状血管腫」という呼び名は通称で、赤あざがいちごのように見えることがあることがその由来です。
いちご状血管腫の原因として、毛細血管の異常な増殖によって起こることが明らかになっています。けれども、その根本的な原因についてはまだわかっていません。ただし、性別では女児のほうが圧倒的に多く、また早産で生まれた赤ちゃんや低出生体重児などがなりやすいなど、一定の傾向があることが指摘されています。また、日本人は白人に比べて10倍程度なりやすいという特徴があります(※)。
※参考:https://cure-vas.jp/list/infantile-hemangioma/
いちご状血管腫の症状
いちご状血管腫の主な症状は赤あざです。生後数日から2週間くらいの間に赤い痣ができ始め、その後、生後5週間~7週間にかけて大きくなります。さらに、生後3~4ヶ月頃までにどんどん増殖し、ピークの80%ほどの大きさにまで達すると言われています。「このまま大きくなり続けるのではないか」と周りは心配になりますが、1歳を過ぎると徐々に小さくなり始めます。そして、個人差はありますが、4~5歳くらいになると赤みが目立たなくなっていきます。
いちご状血管腫はそれ自体が身体に悪い影響を及ぼすものではありませんが、できる部位によっては別の症状が引き起こされることがあります。たとえば目の近くにできた場合には物が見えにくくなる視野障害が起こったり、口や鼻の周りにできた場合には呼吸困難や哺乳障害(母乳やミルクをうまく飲めなくなる)が伴ったりすることもあります。さらに、首やワキ、陰部など、摩擦が生じやすい部位に血管腫ができてしまうと、擦れた際に出血したり、ただれたり(潰瘍)することがあるため、早めに医療機関に相談することが重要です。
いちご状血管腫のタイプ
いちご状血管腫は複数のタイプがあり、実は赤い痣ができないことがあります。具体的には次の3つがあり、痣のでき方がそれぞれ異なります。
- 表在型:皮膚表面に赤い痣が見えるタイプです。痣の見た目もいちごに似ています。
- 深在型:血管腫が皮膚の下にできるタイプです。赤い痣はできず、皮膚が盛り上がったようになるため、初期にはいちご状血管腫と診断することが難しい場合があります。
- 混合型:表在型と深在型の混合型です。皮膚の下に血管腫ができますが、表面が皮膚から出ているため、赤く盛り上がったような見た目です。
このように、いちご状血管腫には複数のタイプがあり、見た目からすぐに診断できる場合もありますが、深在型のように他の皮膚疾患との見分けがつきにくいケースもあります。そのような場合にはさらに詳しい検査を行い、診断を確定させます。
また、血管腫には他にも様々な種類があるため、赤ちゃんの皮膚に気になる痣やできものなどを見つけた時には、早めに医療機関に相談しましょう。
いちご状血管腫は早期治療が重要
いちご状血管腫は良性の腫瘍であるため、これまでは出血や潰瘍、呼吸困難、哺乳障害など他の症状を伴わない場合には特別な治療を行わずに経過観察をすることが一般的でした。しかし、早期に治療を行わなかった場合、血管腫自体が自然に良くなっても、なんらかの痕が残ってしまうことが珍しくありませんでした。また、伸びきった皮膚が萎縮したりしわになったりして目立ってしまうこともあります。
こうした背景もあり、最近では痕が残るなど後遺症のリスクがあるケースでは、早期に治療を始めることがすすめられるようになってきています。実際に早いうちに治療を開始することで、痕が目立ちにくくなったというケースも多数報告されています。
現在は有効な治療法も増えていて、赤ちゃんのうちから治療を開始することができます。他の症状を伴う場合はもちろんですが、そうでない場合でも将来的に痕が残ってしまうリスクを考えると、早期に治療を始めることは価値のある選択肢と言えるでしょう。
いちご状血管腫の治療法
医療機関では、主に次の方法で治療が行われます。
〇内服治療(へマジオルシロップ)
いちご状血管腫の代表的な薬が「プロプラノロール塩酸塩」を主成分とする「ヘマンジオルシロップ」です。もともとは高血圧などの治療薬として用いられていましたが、2016年にいちご状血管腫の治療薬として国内で販売されるようになりました。ヘマンジオルシロップには、血管の異常な増殖を抑え、血管腫が小さくなるのを速める作用があります。乳児でも服用できる薬ですが、低血糖や心拍低下、低血圧など副作用のリスクがあるため、医師の指導のもと、正しく服用することが求められます。また血管腫が小さくなっても再び大きくなる可能性があるため、独自の判断で服薬を中止しないことが重要です。
〇レーザー治療
いちご状血管腫の治療で用いられるのが「Vビームレーザー」です。Vビームレーザーは赤血球のヘモグロビンに吸収される波長を発することができ、異常に増殖した血管腫だけを破壊することが可能です。数ヶ月の期間を空けて複数回照射することで、赤あざを目立たなくすることができます。レーザー治療と言うととても痛みが強いイメージがありますが、Vビームレーザーの最新機器は痛みを抑える機能も備わっていて、生後1ヶ月の赤ちゃんでも照射することができます。
その他、血管腫の状態によってはステロイドを使った治療(内服薬や局所注射)が行われる場合があります。
いちご状血管腫は、内服治療もレーザー治療も保険が適用されます。また小児医療費助成制度を使うと費用がかからずに治療を受けることも可能です。
「小さな赤ちゃんに治療してもいいもの?」「副作用は大丈夫?」などと思うことがあるかもしれません。心配な点や不明点は医師に確認しつつ、赤ちゃんの将来的なリスクも踏まえて治療を検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
- いちご状血管腫は生後1歳までに現れる良性の腫瘍で、血管の異常な増殖が原因
- 女児や早産児、低出生体重児に多く発症し、日本人は白人に比べて発症リスクが高い
- 主症状は赤い痣で、生後数週間で顕著になり、1歳を過ぎると自然に小さくなるが、部位によっては視野障害や呼吸困難などの合併症を引き起こすことがある
- いちご状血管腫には表在型、深在型、混合型があり、それぞれ見た目や診断の難しさが異なる
- 治療法には内服治療のヘマンジオルシロップやレーザー治療があり、早期治療により痕が残るリスクを減らせる