止まらない「脇汗」にさようなら。専門家が教える脇のボツリヌス注射の効果とメリット・デメリット。

執筆:吉村 佑奈(保健師・看護師)

暑い時や運動した時、緊張した時などに増える「脇汗」。日常生活に影響が出るほど大量の脇汗が出る場合は、「腋窩多汗症(えきかたかんしょう)」の可能性があります。「日常的なケアが大変」「周囲の目が気になって仕方がない」という人は、クリニックでの治療を検討してみましょう。脇汗の治療法は複数ありますが、その一つが脇のボツリヌス注射です。この記事では、脇汗が起こる仕組みを踏まえながら、脇のボツリヌス注射の効果やメリット・デメリットについて、わかりやすく解説します。

脇汗が止まらないのはなぜ?多汗症の基礎知識

汗は、体温を一定に保つために欠かせない生理現象です。身体が熱を感じると、汗腺(かんせん)から汗が分泌されます。汗が蒸発する際に身体の熱が一緒に放出されるため、体温を下げることができます。また、汗腺はホルモンや自律神経の影響によっても、活発化することがあります。緊張すると汗を大量にかいたり、更年期の症状として汗が増えたりするのは、そのためです。
このように、発汗はさまざまな理由で起こるものですが、特に気温や運動量に関係なく大量の脇汗が出たり、日常生活に支障を感じるほど脇汗が止まらない場合は、「腋窩多汗症」の可能性があります。中でも、病気など明らかな原因がないにもかかわらず、脇汗が過剰に出る状態は「原発性腋窩多汗症」と呼ばれ、思春期以降に自覚する人が多くいます。
原発性腋窩多汗症では、汗を出すよう指令を出す神経が過敏に働き、必要以上に汗腺が刺激されてしまうと考えられています。体温調節のためだけでなく、緊張やストレスといった精神的な刺激でも脇汗が増えやすくなります。「人前に出ると汗が出る」「汗を気にすると余計に汗が出る」といった悪循環に陥るケースも少なくありません。

脇汗が多い状態が続くと、汗ジミや衣類の変色、ニオイへの不安などから、服装や行動を制限してしまいがちです。また、強いストレスを感じることで、生活の質(QOL)が低下することもあります。
セルフケアだけでは改善しない脇汗のお悩みは、クリニックでの治療で解決することがあります。こうした悩みは決して珍しいものではなく、皮膚科などには複数の治療の選択肢があります。まずは外用薬による治療を行うことが一般的ですが、症状の程度や生活への影響を考慮した上で、ボツリヌス注射、内服薬、レーザーなど医療機器による治療、外科的処置(汗腺除去)なども検討されます。

脇のボツリヌス注射とは?仕組みと期待できる効果

ヒトの身体には、汗を分泌する汗腺として「エクリン腺」と「アポクリン腺」の2種類があります。このうち、多汗症に関係するのはエクリン腺です。体温調節のためにサラサラとした透明な汗を分泌しており、エクリン腺の働きが過剰になると発汗量が増えます。エクリン腺は全身に分布していますが、脇の下には特に多く集まっています。
脇のボツリヌス注射では、「A型ボツリヌストキシン」というたんぱく質の一種を含む製剤を脇に打つことで、汗の分泌を抑えます。注射を打つと、「アセチルコリン」という神経伝達物質の働きが一時的に抑えられ、エクリン腺からの汗の分泌量が減少します。
汗腺そのものを破壊する治療ではないため、効果は永続的ではなく、時間の経過とともに徐々に元の状態へ戻っていきます。個人差がありますが、一般的には治療後数日から1週間ほどで汗の量が減ったと感じる人が多く、効果はおよそ3〜6ヶ月程度持続します。効果を維持したい場合には、医師と相談しながら定期的に施術を行います。

なお、脇のボツリヌス注射は「脇ボトックス」としても知られています。「ボトックス」は製品名であり、治療法全般を指す場合は「ボツリヌス注射」と表現されますが、基本的に同じ治療法です。

脇のボツリヌス注射のメリット

脇のボツリヌス注射は、多汗症に悩む方にとって有効な選択肢の一つです。ここでは、脇にボツリヌス注射を打つメリットを紹介します。

○脇汗に伴うストレスが軽減する

脇汗対策として、こまめに汗を拭く・着替える、制汗剤や脇汗パッドを使う、外用薬を塗るなど、様々な工夫をしている人は多いでしょう。こうしたケアも毎日となると、大きなストレスになります。
脇のボツリヌス注射は、クリニックで施術を受けると3〜6ヶ月程度は効果が続きます。効果は徐々に減っていきますが、一定期間ケアの負担がなくなることは、とても大きなメリットと言えるでしょう。

○重度の場合は健康保険が適用される場合がある

ボツリヌス注射は、重度の原発性腋窩多汗症の場合に健康保険が適用されます。ボツリヌス注射の効果をキープするためには、定期的な治療が必要になるため、金銭的な負担が抑えられることは大きなメリットと言えます。なお、重度の原発性腋窩多汗症と診断されるためには、条件があります。自分が該当するか知りたい人は、医師に相談しましょう。

○外科的な治療法に比べて治療を始めやすい

多汗症の治療には、汗腺そのものを取り除く治療法もあります。切開など外科的な処置が必要なケースでは、傷痕が残るリスクがあったり、施術後に抜糸のための通院が必要になったりと、一定の負担が伴います。これに比べてボツリヌス注射は、切開の必要がなく、身体への負担は比較的少ないと言えます。施術時間も短く、基本的には治療後はすぐに普段通りの生活を送れるため、始めやすい治療法と言えるでしょう。

○蒸れによるニオイが軽減することがある

ボツリヌス注射は、ワキガの原因となるアポクリン腺そのものに直接作用する治療ではありません。そのため、あくまでも副次的な効果になりますが、汗の分泌量が減ることで脇が蒸れにくくなり、結果としてニオイが軽減したように感じられる場合があります。

このように、脇のボツリヌス注射には様々なメリットがあります。日本皮膚科学会でも、脇のボツリヌス注射は、原発性腋窩多汗症の治療法として、外用薬治療に次ぐ選択肢として推奨しています(「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版」より)。

「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版」

脇のボツリヌス注射のデメリット

一方で、脇のボツリヌス注射には次のようなデメリットもあります。

○効果を持続させるためには定期的な通院が必要

脇のボツリヌス注射は、汗腺の働きを一時的に抑える治療です。時間の経過とともに徐々に元の状態に戻るため、効果を維持したい場合には定期的な施術が必要になります。

○注射による痛みや内出血の可能性がある

施術時には注射による痛みを感じることがあります。また、まれに内出血や赤みが生じることがありますが、時間とともに自然に軽快します。

○効果の感じ方には個人差がある

汗の減り方や満足度には個人差があります。そのため、事前に医師と治療の目的や期待する効果について十分に相談することが重要です。また、汗の量だけでなくニオイも気になっている場合、ボツリヌス注射だけでは改善しない可能性があります。別の治療法が適している可能性があるため、主治医に相談しましょう。

○治療を控えたほうが良い人もいる

妊娠中・授乳中の方や、持病や既往歴、体質などによっては、施術を受けられない場合があります。安全に治療を受けるためにも、施術前の診察で体調や既往歴を正確に伝えることが大切です。

○クリニックの選び方次第では効果が薄れることもある

施術を繰り返し行うことで、ボツリヌス製剤に対する抗体ができてしまい、効果を実感しにくくなることがあります。原因として、ボツリヌス製剤の量が多いことや、施術間隔が短いことが挙げられます。適切な量で、適切な間隔をあけて施術をすることで、抗体が作られるリスクは減らすことができます。そのためにも、信頼できる医師に施術を依頼することが重要です。

脇のボツリヌス注射に限らず、治療にはメリットとデメリットがあります。重症度やライフスタイルなどによっても、自分に合う方法は異なります。脇汗に悩む人は、医療機関で相談してみてください。

まとめ

  • 脇汗は体温調節に必要な生理現象だが、日常生活に支障が出る場合は原発性腋窩多汗症の可能性がある
  • 原発性腋窩多汗症では神経が過敏に働き、緊張やストレスでも脇汗が増えやすくなる
  • 脇のボツリヌス注射はアセチルコリンの働きを抑え、エクリン腺からの発汗量を一時的に減らす治療法である
  • 効果は3〜6ヶ月程度持続し、脇汗によるストレス軽減や生活の質の向上が期待できる
  • ボツリヌス注射は定期的な施術が必要であり、効果や副作用には個人差があるため、医師と相談した上で治療を選択することが重要である